二十四 無邪気 「良寛上人」
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うたよまん 手まりや つかん 野にやでん
君がまにまに なして 遊ばん
(貞心尼)
うたよまん 手まりや つかん 野にもでん
心ひとつを 定めかねつも
(良寛)
面謁
お師さまは、今日はお早うございました。お師さま、今日はずっとおいでて下さいまし。御持参の御書見もなさりたいでしょうけれど、今日はこの貞心につきあって下さい。
お師さまは無邪気なお方。そんなお年で、子らとかくれんぼうもなさる。でもお師さま、今日はお師さまのなさりたいように、貞心もついてまわりますから、御相手さして下されませ。うたのやりとりに、おあきなら、手まりはいかがでしょう。お散歩のお伴もいたします。野ぐさを摘んで、おつゆにしましょうか。
貞心よ。待っていてくれたか。そうか。うたにしょうかな。どれ手まりじゃなよしよし。野に出たいか。ゆこう。じゃがな、貞心よ。わしはお前さまが慕うほど見事な仏者じゃない。心みにくい凡夫人じゃ。今日も今日とてな。
閃き
貞心は、師にふれて過ごすのが、無上にたのしい。よき師よき仏者が、遊びの中でひらめかす仏道を、感じ取りたいのである。不用意な所作に閃く道が尊い。良寛は七十の今も求道(ぐどう)の外ない。良寛の遊びは、単なるたわむれではない。遊びも心定めんとする行である。
(昭和三十七年九月)