二十八 修正会 「九条 武子」
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みあかしは 輝きみちて 誦(ず)す経に
み堂の春ぞ 明けそめにける
(九条 武子)
御酒海(ごしゅかい)
明けましておめでとうございます。
元旦の御開山さまは、凛冽の中にお座りです。鳳凰のまう打敷。松に笹、枝垂れ柳を配したお花。ゆずり葉、だいだいをのせた五重一対の鏡餅。輪灯ほのめくお内陣です。前夜、鴻の間に用意した壺から、色衣五条の会行事が、御酒を銚子にくみます。み堂に運ばれた御酒は、紫衣(しえ)に、御下賜(ごかし)の菊花御紋の袈裟を召されたご門主さまによって、三宝の御盃に盛られ、お祖師さまに献げられます。開門前、五時からです。お障子は、閉められたまま、侍するものは会行事一人。血脈のご門主さまがなさる、たった一人の御祝儀です。
御流盃(ごりゅうはい)
御酒海の儀がすみますと、鴻の間で、御流盃の事が行われます。総長以下各代表者などが、ご開山さまのお流れを頂くわけです。御門主さまの祝膳には、三宝に菱餅、昆布、勝栗などが配されます。年々に迎うる春は同じくとも、年々の想いはちがいます。ある年、武子夫人は、
元旦の 光みちたる 鴻の間に
君なき春を 久しとぞ思う
と、詠っています。御流盃に連なりながら、思うことは、あの人と一緒だったら。すみまして六時、元旦の修正会(しゅしょうえ)です。
(昭和三十八年一月)