二十三 世は夢 命は露 「良寛上人」
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立ちかえり またも訪いこん 玉鉾の
道のしば草 たどりたどりに
(貞心尼)
またも来よ 柴のいほりを 厭わずば
すすき尾花の 露をわけわけ
(良寛)
法友
北陸・出雲崎の良寛和尚が七十才にして、二十九才の尼貞心と遇ったことは、墨絵に彩られた一筆の淡紅色のようにゆかしい。貞心尼、どれほど若く美しかろうとも、ただそれだけで愛しむ和尚ではない。貞心のひたむきな道心が、貞心を美しくする。その道心に魅かれた和尚である。
貞心尼は若い女である。煩悩性欲のとりこであるのが通常なのだ。それとたたかう貞心尼が、老良寛にはよくわかる。和尚を慕い訪ねる貞心の姿は、性欲とたたかう姿である。貞心尼にとって、良寛和尚は単に人ではない。男であることも、否むわけにわゆかない。貞心が可憐である。
しおり
お師匠さま、お暇します。また参ります。私には迷いの誘い道がたくさんございます。その折々には、あなたの示した指南を道標とし、枝折(しおり)として、あなたへの道、仏への道を忘れずにたどって参ります。
貞心、またおいで。来ても傾いた草庵だ。わしも年傾いた愚僧じゃ。もしわしに、とる所あらば、また来い。世は夢だ。命は露だ。すすき尾花、たよりない世だ。仏道は、その道中にあるのだ。誘惑をわけわけ歩めよ。
(昭和三十七年八月)