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二十三 世は夢 命は露 「良寛上人」

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法悦百景 深川倫雄和上

二十一 いのちの葉 「浅原 才市」
二十二 恋ごころ 「良寛上人」
二十三 世は夢 命は露 「良寛上人」
二十四 無邪気 「良寛上人」
二十五 大風のごとし 「物種 吉兵衛」
二十六 他力 「物種 吉兵衛」
二十七 許す母 「与謝野 礼巌」
二十八 修正会 「九条 武子」
二十九 親さま 「足利 源左」
三十 常不軽菩薩 「宮澤 賢治」
三十一 見聞知 「深川 倫雄」
三十二 仕えてぞ「行基 菩薩」
三十三 ひとの涙 「九条 武子」
三十四 くるしみの壺 「九条 武子」
三十五 この善太郎 「善太郎」
三十六 提婆尊者 「梁塵秘抄」
三十七 職業すなわち仏道 「兼好 法師」
三十八 寂しさの秋 「三木 清」
三十九 寂しき悔 「九条 武子」
四十 報恩講 「狐雲」
ウィキポータル 法悦百景

立ちかえり またも訪いこん 玉鉾の
道のしば草 たどりたどりに
          (貞心尼)

またも来よ 柴のいほりを 厭わずば
すすき尾花の 露をわけわけ
            (良寛)

法友

 北陸・出雲崎の良寛和尚が七十才にして、二十九才の尼貞心と遇ったことは、墨絵に彩られた一筆の淡紅色のようにゆかしい。貞心尼、どれほど若く美しかろうとも、ただそれだけで愛しむ和尚ではない。貞心のひたむきな道心が、貞心を美しくする。その道心に魅かれた和尚である。

 貞心尼は若い女である。煩悩性欲のとりこであるのが通常なのだ。それとたたかう貞心尼が、老良寛にはよくわかる。和尚を慕い訪ねる貞心の姿は、性欲とたたかう姿である。貞心尼にとって、良寛和尚は単に人ではない。男であることも、否むわけにわゆかない。貞心が可憐である。

しおり

 お師匠さま、お暇します。また参ります。私には迷いの誘い道がたくさんございます。その折々には、あなたの示した指南を道標とし、枝折(しおり)として、あなたへの道、仏への道を忘れずにたどって参ります。

 貞心、またおいで。来ても傾いた草庵だ。わしも年傾いた愚僧じゃ。もしわしに、とる所あらば、また来い。世は夢だ。命は露だ。すすき尾花、たよりない世だ。仏道は、その道中にあるのだ。誘惑をわけわけ歩めよ。

(昭和三十七年八月)