三十 常不軽菩薩 「宮澤 賢治」
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あらめの衣 身にまとい 城より城を へめぐりつ
上慢四衆の 人ごとに 菩薩は礼を なし給う
われ汝らを 尊敬す あえて軽賎なさざるは
汝ら作仏せん故に 菩薩は礼を なし給う
(宮澤 賢治)
不軽(ふぎょう)
宮澤賢治は、明治二十八年、岩手県に生まれた。四才の頃は、正信偈などを暗誦した。二十才、法華経を読んで、ただ驚喜しおののいたという。その後一途にこの経を奉じ、そこに説かれる常不軽菩薩を学んだ。
常不軽菩薩とは、字のごとく、つねに人を軽んじないことを、誓った菩薩である。どのような驕慢な人をも、その人を拝むことを、仏道の行とする菩薩である。 人を選んでおじぎをするのが、世のつねである。威張る人におじぎをするのはいやなものである。さげすむ人にも丁寧には挨拶しない。どんな人にも一人残さず、会う人ごとに心からおじぎをする者の尊さになろうとする常不軽菩薩。賢治の理想である。
礼(らい)
身に粗末な姿のまま城下町を、あちらこちらと、礼の修行をする。下賎とされる者をも軽んぜず尊敬すること、仏を礼するに同じ。その心は何か。一切衆生、どなたも仏に作(な)る人である。愚人・悪人そのものに、礼をなすに非(あら)ず。愚悪の人も、いかなる人も、仏になるべき人だからである。
コウイウ人ニ 私ハナリタイ
(昭和三十八年三月)