二十六 他力 「物種 吉兵衛」
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聞けばわかる 知れば知れる 聞こえたはこっち
知れたはこっち こちらに用がない
聞こえたこちらは おさらばと すてる方や
用というのは わりゃ わりゃ わりゃ
と向こうから 名のって下さる
(物種 吉兵衛)
聞く
吉兵衛は、大阪堺・船尾(ふのお)の者。四十才をすぎた頃から、信仰への道を歩みました。吉兵衛は、死んでゆけませぬ、というのが苦労であった。
四十年間の生涯をつづめて、人生の疑問が、死んでゆけませぬ、に総じてこめられていた。近畿その他の信者、師僧をたずね、西方寺の元明和上にめぐりあった。
死んでゆけませぬ。
和上、死んでゆけたらよいのか。
この一言、吉兵衛の目がさめた。死んでゆけるの、ゆける、を求めた所に、誤りがあった。ゆける、ゆけませぬは、吉兵衛の納得である。後に、わしゃびっくりしたでェ、重かったでェ、といっている。わが納得ではない。仏の力を聞くのである。浅原才市は、
ただききたい ききたい むりがある
きかせるひとは なむあみだぶつと
もをす ほとけよ
という。
他力
念仏は聞く一つである。だが、聞くに力がない。聞かせる仏が、すべてである。お前よ、お前よ、と聞こえ込んで下さる。
こんなもの 死んだらどうなります。
こんなもの 松のこやしになるなり やせ犬の腹を こやすなり どうでもしたらよい胴体じゃ
(昭和三十七年十一月)