操作

二十二 恋ごころ 「良寛上人」

提供: Book

Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

二十一 いのちの葉 「浅原 才市」
二十二 恋ごころ 「良寛上人」
二十三 世は夢 命は露 「良寛上人」
二十四 無邪気 「良寛上人」
二十五 大風のごとし 「物種 吉兵衛」
二十六 他力 「物種 吉兵衛」
二十七 許す母 「与謝野 礼巌」
二十八 修正会 「九条 武子」
二十九 親さま 「足利 源左」
三十 常不軽菩薩 「宮澤 賢治」
三十一 見聞知 「深川 倫雄」
三十二 仕えてぞ「行基 菩薩」
三十三 ひとの涙 「九条 武子」
三十四 くるしみの壺 「九条 武子」
三十五 この善太郎 「善太郎」
三十六 提婆尊者 「梁塵秘抄」
三十七 職業すなわち仏道 「兼好 法師」
三十八 寂しさの秋 「三木 清」
三十九 寂しき悔 「九条 武子」
四十 報恩講 「狐雲」
ウィキポータル 法悦百景

向ひゐて 千代も八千代も 見てしがな
空ゆく月の こと 問はずとも
                (貞心尼)

君や忘る 道やかくるる このごろは
待てど くらせど 音づれもなき
                (良寛)

 今から百三十五年前。良寛和尚は七十才、尼貞心は二十九才で、その門弟になりました。

貞心尼は、この老師を慕うのです。恋うのです。良寛和尚は、このよき弟子を愛(いと)しみます。貞心尼は、向い合った師と自分が、そのまま苔むす石になるまで、そのまま居たいのです。

仏の教は、月を指す指である。師に指導されて、月を見たいとは思わない。黙って師を見つめていたい。和尚は愛しの弟子を、想い待ちます。わしを忘れたか、道が草に埋もれたか、久しく言問うことのなきはいかにと案じます。

これは性なき恋いである。道の恋い。蒸留した恋いである。貞心尼は師に向い合っていた。

それだけで師は、われを磨き給う。師よ、月を指し給うなかれ。向い合う師こそ仏なる。和尚は弟子を想う。貞心よ、師を忘れたか、仏を忘れたか、仏道を歩まないのか、なぜ訪わぬのか。

十方衆生

 相手の性を見てする恋ではなく、相手の中の仏性を恋うのである。仏に十方衆生と呼ばれた同士が、互いに温め合って行く心である。美しい仏心を恋い合う。念仏の夫婦、家族、同行仲間は、こう、つきあいたい。

(昭和三十七年七月)