三十七 職業すなわち仏道 「兼好 法師」
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暗き人の 人をはかりて
その智を知れりと思はん
さらにあたるべからず
おのれが境界に あらざるものをば
争ふべからず 是非すべからず
(兼好 法師)
愚者
人にはそれぞれ職とする所がある。智慧のない人が、人をあれこれ評して、その知識の程度がわかったと思うのは、大体まちがっている。人のことを、あれこれ評するについて、自分の専門分野でないことに、発言するのはよくない。批判をして、優劣・善悪を判ずるべきではない。
こう言うのは、兼好法師である。この人は、親鸞聖人の滅後二十年、一二八四年に生まれ、六十八才で亡くなった。朝廷に仕えたが、四十才に出家した。徒然草は、この人五十才頃の随筆である。この書は、神祇・釈教・恋無情・全き自由人の人生論である。この人の自由の本(もと)は、ひたぶるな世捨人の心である。世を捨ててこそ、曇りない機微の味がたのしめる。世の物識りの程、つまらぬ者はない。世の萬般(ばんぱん)に、知(ち)わたる事はよくない。
職業
職業に優劣はない。職業とするか、渡世の業(ぎょう)とするかによって、人は定まる。わが職とすることにおいて、ひけを取る勿れ。プロに徹すべし。職分以外に、口はばったいことを言うな。どうしたら客がつくか、どうしたら見事なものが出来るか、徹底してゆけ。それが仏道である。
(昭和三十八年十月)