邪魔 (じゃま)
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「おじゃまします」という言葉がありますが、これを漢字で書くと「お邪魔します」となります。「邪な魔」と書くんですね。まあ、自分のことを悪魔だと思っている人はほとんどいないでしょうし、逆に自分の周りに「邪魔な人」がいたり、「邪魔な物」があって困っている人はたくさんいるかもしれません。まして、「お邪魔します」という挨拶の返事に、もしも「おっ、邪魔者が来たぞ」なんて言われることがあったとしたら、びっくりしますよね。
ところが、本来「邪魔」という言葉は、お釈迦さまの修行を妨げる“心の悪魔”を意味するものでした。仏教を説かれたお釈迦さまにとっても、自分の心の中に潜む魔(煩悩)の解決は、大変な問題だったのでしょう。
世の無常に悩まれて出家されたお釈迦さまは、六年間の修行生活を捨てて、菩提樹の下にお座りになり、人間の苦悩の原因である心の闇(無明)をうち破り、さとりを得られました。それゆえに宗祖親鸞聖人も、お釈迦さまの教えを「無明の闇を破る智慧の光」(『教行信証』)であると讃えておられるのでしょう。
そういう意味では、「邪魔」は私たちの外側にあるのではなく、私たちの心の内側、つまり、自分の都合で「邪魔な人」や「邪魔な物」を作りだしてしまうような、真実とはかけ離れた生き方をしている、私たち自身の暗い心のことをいうのです。
とは言うものの、ついこの間、仕事から家に帰り、楽しそうに絵をかいて遊んでいる2歳のわが子に近づいて言われた言葉は、「お父さんは邪魔よ…」。現実は厳しいものですね。
仁禮秀嗣 登別大谷高等学校教諭(宗教科) 月刊『同朋』2003年4月号より
出典と掲載許可表示(東本願寺出版部発行の月刊『同朋』)から転載しました。 |