六十五 無常の愛 「外村 繁」
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私は 先妻を 亡くして 慟哭した
その反動のように 今の妻を 熱愛する
世間の人は そんな私を嘲笑する ・・・
私は この 慈悲の始終ないことは
徹底的に 知らされている
泣くことの空しい同様 愛することも 至って空しい
(外村 繁)
愛
外村繁は、昭和三十六年夏、ガンで亡くなった。立派な小説書きでした。後妻も、乳のガンで亡くなりました。二人は一時、二人がガンであることを、相知りつつ生きた。この人は、滋賀県に生まれた。京都の三高を出て、東京の大学の頃、カフェの女給、とく子と一緒になった。高校の時、歎異抄にふれて驚いたが、しっくりしなかった。潔癖な青年、外村は、とく子と一緒になり子をなした。その人は、愛に身を染めつくしていった。親鸞聖人の言葉への抵抗がなくなっていった。聖人の厳しい言葉の背後に、しみじみと慈悲光の満ちあふれているのを感じた。愛に狂うてみて、自分の愚かさを思い知った。
無常
この人四十七才の暮れ。とく子は四十六才、五人の子を残して亡くなった。昭和二十三年である。この人の愛情は、静かで深く瑞々しく妻を看病した。翌年すぐ貞子(ていこ)と結婚した。三十九才、初婚。また阿呆のように新鮮に、愛に蘇生した。利己的で浅ましい人間の愛に身を置くより外なかった。この慈悲、始終なし。無常の愛が生まれてくる。
(昭和四十一年二月)