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七十三 割れた尺八 「報専坊 慧雲」

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Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

六十一 愛語 「道元禅師」
六十二 聞き場 「浅原 才市」
六十三 煩悩の過去 「九条 武子」
六十四 御報謝 「句仏上人」
六十五 無常の愛 「外村 繁」
六十六 甘受の法悦 「浅原 才市」
六十七 タノム 「宇右エ門」
六十八 汝を捨てず 「九条 武子」
六十九 おらあ とろいだで 「足利 源左」
七十 非常識 「臼杵 祖山」
七十一 罪の沙汰無益 「法然上人」
七十二 他力の信心 「憶念寺 良雄」
七十三 割れた尺八 「報専坊 慧雲」
七十四 うその皮 「浅原 才市」
七十五 心の豊満 「九条 武子」
七十六 中ぐらい 「小林 一茶」
七十七 亡き子は知識 「高楠 順次郎」
七十八 愚痴の妙薬 「浅原 才市」
七十九 恕しこそ救い 「聖徳太子」
八十 鑑真和上 「松尾 芭蕉」
ウィキポータル 法悦百景

久しく妄心に向って 信心を問う
断絃を揆して 清音を責むるが如し
何ぞ知らん 妙微梵音のひびき
劉喨 物を悟らしむ 遠くかつ深し
            (深諦院 慧雲和上)

割れた尺八

 この八月、江津市(ごうつし)の小川さん方を訪ねた。昨年四月に訪ねたのが、四度目であった。小川市九郎さんは、一昨年五月、八十五才で亡くなった。

 いつもたくさんの話をしてくれた。私は尺八を吹きますでナ、ではじまる話。 ある時、愛用の尺八を縁からおとした。石にあたって割れたので、鳴らなくなった。

シュロ縄でしめても鳴らぬ。ああもし、こうもする。鳴らないでおると、ニイさんが、おとうさん割れた尺八は鳴りません。私が浜田から買うて来ましょうと、いいましてナ。

 新しい尺八は、まことによく鳴った。目が見えず、歯のない者の吹く尺八は、なんぼ浜田でもなかろうと思ったが、ニイさんがいいのを買ってくれたのである。ニイさんとは、あとつぎの小川静雄さんである。

 ニイさんは、いいことを言うてごした。割れた尺八は鳴りませんてナ。鳴るかと思うて、ああもし、こうもしましたがナ。

梵音(ぼんのん)

 久しいこと、信心信心といって、わが心に計うたが、絃(つる)の切れた琴を揆(はじ)いて、いい音がせぬと腹立てたも同じ。必ず助くるの呼び声聞いてみりゃ用意の出来たる呼び声一つの尊さよ。

(昭和四十一年十月)

劉喨(声や音のさわやかで澄んでいるさま。)