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七十五 心の豊満 「九条 武子」

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法悦百景 深川倫雄和上

六十一 愛語 「道元禅師」
六十二 聞き場 「浅原 才市」
六十三 煩悩の過去 「九条 武子」
六十四 御報謝 「句仏上人」
六十五 無常の愛 「外村 繁」
六十六 甘受の法悦 「浅原 才市」
六十七 タノム 「宇右エ門」
六十八 汝を捨てず 「九条 武子」
六十九 おらあ とろいだで 「足利 源左」
七十 非常識 「臼杵 祖山」
七十一 罪の沙汰無益 「法然上人」
七十二 他力の信心 「憶念寺 良雄」
七十三 割れた尺八 「報専坊 慧雲」
七十四 うその皮 「浅原 才市」
七十五 心の豊満 「九条 武子」
七十六 中ぐらい 「小林 一茶」
七十七 亡き子は知識 「高楠 順次郎」
七十八 愚痴の妙薬 「浅原 才市」
七十九 恕しこそ救い 「聖徳太子」
八十 鑑真和上 「松尾 芭蕉」
ウィキポータル 法悦百景

栗鼠のごと 心の中を かけまわり
かけまわりゆく 師走の月日
              (九条 武子)

 来年は怠けようと思う。俺はことし何をしたのか。ことしのはじめ新年の朝、三百余日を所有していた。今三百余日は流れたか。

 私は高野豆腐を好きでない。いま師走、味のない高野豆腐をかむような、悔恨があるのみ。年のはじめの心から、年の終りの心、ただいま一向豊かになっていない。次から次へと雑用が駆けすぎて行って、呆然と師走の日がある。

 年のくぎりを決めたのは誰だ。季節という年の瀬というくぎりの前で、ただ心が空まわりをする。雑用の空まわりは、あわてたリスのように、リズムも法則もなくかけまわる。無駄に師走の日が過ぎようとする。

 心まずしき者の中では、仕事が通過するだけで、肥えてゆかない。心ゆたかな者の中では、静かに湛えた心が肥る。

 来年は怠けようと思う。仕事があわただしくて、心が呆然とするより、仕事がひまであって、心が豊満でありたい。お金がたくさんあるよりも、心が沢山ありたい。身が動いて心が怠けるよりも、体が静かであって、心が生きていたい。

 とは申せ、いま師走。急用と悔恨の心がかけまわる。悲しき凡夫の年の暮れ。諸行無常、命の残りは少いのに。

(昭和四十一年十二月)