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「五十六 しのびの殿御 「お軽」」の版間の差分

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2016年10月4日 (火) 17:36時点における最新版

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法悦百景 深川倫雄和上

四十一 舞台 「池山 栄吉」
四十二 信心の智慧 「善太郎」
四十三 無我・極楽への道 「中 勘助」
四十四 独楽 「明顕寺住職」
四十五 聖人の妻 「恵信尼公」
四十六 名号成就 「一遍上人」」
四十七 自力無効 「小川 チエ」
四十八 オコタルベカラズ 「浄泉寺 覆善」
四十九 夢の王 「後白河上皇」
五十 法の妻 「二条 弘子」
五十一 流星の光ぼう 「与謝野 晶子」
五十二 ご命日 「後生口説き」
五十三 苦境にうつ鞭 「九条 武子」
五十四 帰る旅 「小泉 義照」
五十五 老いらく 「佐藤 春夫」
五十六 しのびの殿御 「お軽」
五十七 上皇遠流 「後鳥羽上皇」
五十八 赤い牛 「宏山寺 僧僕」
五十九 大盤石 「九条 武子」
六十 先立ちし子 「有田 甚三郎」
ウィキポータル 法悦百景

かどに たたした しのびの 殿御
ゆきに あはして おこかいな
           (お軽)

 六連島(むつれじま)のお軽さんが、美人であったと聞いたことはない。むしろ醜女であったようなイメージが、私にはある。しかしお軽は女である。

 小野の小町は、美人であったという。そうでもあろう。深草の少将は、小町恋しさに魅かれて、忍び通いをする。毎夜毎夜通えども、仲々戸を開けてもらえない。夜の寒さに耐えて、夜毎たたずんだ。九十九日目の夜、門前で凍え死んだ。あわれな男の片想いである。小町はひどい女だ。男をして百夜も通わせて、中に入れずにやすんでいる。女の仕合せとは、そんなものかも知れない。恋いこがれてたたずむ男を、月が照らす。階(きざはし)に動かぬ影が一つ。風流である。

 お軽もこの仕合せを思った。忍んで来た殿御がある。そっと、しかし熱く戸をたたく。引き入れようか、どうしようか。外は雪だ、親鸞聖人ならねども。

 私を想うてたたずむ殿を、雪の門前にほっておこうか。聖人は、石の枕に雪のしとねでやすまれた。広大なお方に想われて通われて、じれたお軽はそれでもあわぬ。雪にあわしていたわしや。お軽の驕慢自力は、如来様や聖人を、やすやす引き入れることはせぬ。驕慢のお軽を、雪に立っても想い続けて下さるとは。

(昭和四十年五月)