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四十三 無我・極楽への道 「中 勘助」

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Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

四十一 舞台 「池山 栄吉」
四十二 信心の智慧 「善太郎」
四十三 無我・極楽への道 「中 勘助」
四十四 独楽 「明顕寺住職」
四十五 聖人の妻 「恵信尼公」
四十六 名号成就 「一遍上人」」
四十七 自力無効 「小川 チエ」
四十八 オコタルベカラズ 「浄泉寺 覆善」
四十九 夢の王 「後白河上皇」
五十 法の妻 「二条 弘子」
五十一 流星の光ぼう 「与謝野 晶子」
五十二 ご命日 「後生口説き」
五十三 苦境にうつ鞭 「九条 武子」
五十四 帰る旅 「小泉 義照」
五十五 老いらく 「佐藤 春夫」
五十六 しのびの殿御 「お軽」
五十七 上皇遠流 「後鳥羽上皇」
五十八 赤い牛 「宏山寺 僧僕」
五十九 大盤石 「九条 武子」
六十 先立ちし子 「有田 甚三郎」
ウィキポータル 法悦百景

常に征服者となり 勝利者となることを
望んで生きていた 提婆達多の一生は
それだけに 高慢と嫉妬との 我に
悩まされなけらば ならない一生だった
            (中 勘助)

 中勘助は、大正九年小説「提婆達多」を発表した。提婆は釈尊のいとこである。解脱(さとり)への道を、わき目もふらず歩む釈尊に対し、呪いと憎しみの反抗をしたのが提婆である。

 征服しようとする心のうしろに高慢があり、勝利を得ようとする心は、嫉妬から生まれる。勝とうとする心は、高慢と嫉妬とのドレイである。提婆は呪いと憎しみ、傲慢と嫉妬とに引きずられて、心の自由を全く失った。最も愛に飢えた精神の餓狼(がろう)であった。心の餓(う)えたる狼であった。その底なる執着が、我(が)である。我(が)に引きずられ追い立てられて、一生を送った人物が提婆である。

無我

 さてわれらは、提婆とどれ程ちがうか。我(が)のゆえに勝とうとする心は捨てられない。勝とうとする心が生きてゆく力でもある。その心をやめるならば、社会の落伍者であろう。勝とうという生活意欲をもちながら、我(が)のドレイにならない道はないか。

 心の自由を得たい、無我でありたい、それは極楽への道にある。

(昭和三十九年四月)