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四十九 夢の王 「後白河上皇」

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法悦百景 深川倫雄和上

四十一 舞台 「池山 栄吉」
四十二 信心の智慧 「善太郎」
四十三 無我・極楽への道 「中 勘助」
四十四 独楽 「明顕寺住職」
四十五 聖人の妻 「恵信尼公」
四十六 名号成就 「一遍上人」」
四十七 自力無効 「小川 チエ」
四十八 オコタルベカラズ 「浄泉寺 覆善」
四十九 夢の王 「後白河上皇」
五十 法の妻 「二条 弘子」
五十一 流星の光ぼう 「与謝野 晶子」
五十二 ご命日 「後生口説き」
五十三 苦境にうつ鞭 「九条 武子」
五十四 帰る旅 「小泉 義照」
五十五 老いらく 「佐藤 春夫」
五十六 しのびの殿御 「お軽」
五十七 上皇遠流 「後鳥羽上皇」
五十八 赤い牛 「宏山寺 僧僕」
五十九 大盤石 「九条 武子」
六十 先立ちし子 「有田 甚三郎」
ウィキポータル 法悦百景

あかつき 静かに 寝ざめして 思えば涙ぞ 仰えあえぬ
はかなくこの世を 過しては いつかは浄土へ参るべき
             (後白河上皇)

 後白河上皇が、今から約八百年まえ、いろいろの人達からあつめた、語りごとを綴って、今は『梁塵秘抄』といわれる書物を残されました。ですから、はじめの詞は、上皇御自身のものではありません。名もない人の思いです。後白河上皇は、源平のあらそいの頃の方で、親鸞聖人は、その頃生まれました。上皇は、源平の戦乱の中で腕をふるった立派な政治家でありました。王者の中の王者であったと言えます。

 英雄は朝方が寂しいでしょう。昼間は英雄は忙しい、歓楽の夜は更け、酔いはさめ、人の音せぬあかつき、ふと、寝ざめる。王も英雄も、そこでは、たった一人の人間にほかならぬ。おれは何だ、へつらう者もねむり、美女もおぼえない。千軍万馬の大将の心の中に、寂莫の風が通り抜ける。人生は何か。

 上皇は仏道に入って、法皇となりました。

はかなきこの世を 過ごすとて 海山かせぐと せし程に
 万の仏にうとまれて 後生わが身を いかにせん

『梁塵秘抄』の歌です。うけた時間の長さは、王も民も同じである。王の昨日も民の昨日も同じ長さである。去ってしまえば同じだ。

朕が身 五十余年 夢の如し
   万をなげすてて 往生極楽を望まん

(昭和三十九年十月)