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五十七 上皇遠流 「後鳥羽上皇」

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法悦百景 深川倫雄和上

四十一 舞台 「池山 栄吉」
四十二 信心の智慧 「善太郎」
四十三 無我・極楽への道 「中 勘助」
四十四 独楽 「明顕寺住職」
四十五 聖人の妻 「恵信尼公」
四十六 名号成就 「一遍上人」」
四十七 自力無効 「小川 チエ」
四十八 オコタルベカラズ 「浄泉寺 覆善」
四十九 夢の王 「後白河上皇」
五十 法の妻 「二条 弘子」
五十一 流星の光ぼう 「与謝野 晶子」
五十二 ご命日 「後生口説き」
五十三 苦境にうつ鞭 「九条 武子」
五十四 帰る旅 「小泉 義照」
五十五 老いらく 「佐藤 春夫」
五十六 しのびの殿御 「お軽」
五十七 上皇遠流 「後鳥羽上皇」
五十八 赤い牛 「宏山寺 僧僕」
五十九 大盤石 「九条 武子」
六十 先立ちし子 「有田 甚三郎」
ウィキポータル 法悦百景

限りあれば さても耐へける 身の憂さよ
民のわらやに 軒をならべて
           (後鳥羽上皇)

金の扉

 さきごろ、天皇さまの長女でましまし、照宮さまと申しあげていたお方が亡くなられた時、お気の毒であり、かなしくもあった。天皇さまも、無常のお方である。行届かざるなき医療をうけても、若くして逝かねばならない。後鳥羽上皇は、八百年も昔の方である。文芸にも政治にもすぐれたお方でありました。壇ノ浦の戦いの前年、天皇になられ、二十三年、法然上人、御開山さまを流し者にされた時の上皇でありました。国の王位にありながら、政治の実権は、鎌倉幕府にとられました。上皇も権力に惹かれる。承久三年、鎌倉幕府を討とうとして、却(かえ)って敗れ、逮えられて、隠岐の島に流されました。御開山を流してから十四年目、自らが流されたのである。

葦の軒

昔は 清涼紫辰の 金の扉に 采女 腕を並べて簾を巻き
今は 民煙逢巷の葦の軒に 海人釣を垂れて語らいをなす

 上皇は栄枯盛衰、今昔の思い深く、念仏に明けてくれる。民家に軒(のきば)をならべて、したこともない苦しい生活に、耐えねばならない。順調の日、誰も無常を思わない。世の幸福は、人の目をくらます。幸福であっても、今日は無常の一日だ。幸福は無常を覆う。しかし真実は、のっぴきならぬ無常である。

(昭和四十年六月)