操作

八 うそ うそ 「浅原 才市」

提供: Book

Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

もがりかやんな うきよのことを ひっくりかやうて
まよいになるぞ こころしずかに うきよをすごせ
たがいに これをはぎみま正(しょう)
なむあみだぶつ なむあみだぶつ なむあみだぶつ
わしのゆうこと をそをそ
                (浅原 才市)

うそうそ

 才市は、昭和八年一月十七日、八十三才で亡くなった。この人が、生涯かき綴ったくちあい、今は単にうたと、いっておこう。一首宛(づつ)時折によむ程度では、才市の全人格は伺えないが、中でも珠玉と思われるものを、検討してゆきます。今日のこの一首は、最後に至って、わしのゆうこと、うそうそという一行が光る。

無常

 はじめから才市は、信心の人の処世を、人に示した。才市は、浮世-世俗を捨てはしない。むしろ、この世にうけた「いのち」を、この上なく楽しんだ。あるうたに、

  さいちゃ どんどこはたらくばかり

と、いっている。互に励みましょうという心である。励むのではあるが、心さわいで、もがき働くのであるならば、それは無信の人の姿だ。念仏の信は、浮世がひっくり返ることもあると、その無常を教えてくれる。世を無常とした上で、無常でない念仏の信を、一本通し、そして心静かに無常の世を励めと、才市はいう。

真実

 才市はそういって、称名しながらしまったと思うのである。小慈小悲もなく、偉そうなことをいった。みんなうそです。仏さまだけが真実です。皆、六字の力です。

(昭和三十六年五月)