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十三 一隅を照らす 「伝教 大師」

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法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

国の宝とは何物ぞ 宝とは道心なり
径寸十枚は 是れ国の宝にあらず
一隅を照らすもの これ即ち真の 国の宝なり
             (伝教 大師)

一隅を照らす

 これは伝教大師最澄が、比叡山で仏弟子を教育した時の学則、すなわち『山家学生式』の一節です。

 径寸十枚とは、さしわたし一寸もある宝の玉十個ということで、むかし支那の梁の国王が誇った宝です。比叡山で、この学則の下に学んだのが法然上人であり、道元禅師であり、親鸞聖人でありました。この人達は、けっして国中を照らそうとした方ではありません。黙々として、わが足もとを照らしただけです。そういう生涯をつらぬいたのは、仏道への道心でした。

 人を責め、ひとの世話をしたがる世の中です。人の領分まで照らそうとします。争いになります。まず、わが領分を照らそう。机の脚は、どの脚も一隅を支えている。自分の隅も照らせないで、人の隅まで照らすなかれ。

 道心こそ平和の芯棒である。

(昭和三十六年十月)