九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
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わしのうまれわ じごくのうまれ
わたしゃたびいぬ ををすべて
うきよをすごす なむあみだぶつ と
しゃばのせかいも あなたのせかい
さいちが ご正(しょう)の さだまるせかい
ここわあなたの まちぶせのちゃや
(浅原 才市)
旅犬
才市のうたを、この会報に書くつもりで、何百とあるものの中から、あれこれとえらんでおりますと、半日たちました。しまいには、才市の中に引きこまれて、どれもよくて決めかねます。
善導大師の教によれば、才市は、生々流転の凡夫、すなわち地獄からの生まれである。金持ちに飼われたセパードではなくて、何処ともなく迷い来た、旅犬である。諸神諸仏に尾をふっても、善い所のないゆえに、笑われ叱られ通しだ。尾をすぼめてすごしていたら、一匹の犬がいた。これもみすぼらしい犬だが。
親友
となってくれた。この犬、元来立派なのに、才市と一つになろうとて、身をやつし、なむあみだぶと名のって、生涯のつれとなってくれた。才市にとっては、この生涯のつれは、かけがえもなく尊いものである。おやさまに心とられてみれば、この娑婆は、あなたがしつらえた待伏せの茶屋なのだ。この茶屋に、待伏せにあったのが才市である。茶屋の主に見つけられ、もう迷いの旅は続けられない。
待つ
あなたは、どれほどお待ちになられましたろう。この生涯全部が、あなたの茶屋、才市が浄土を待つ茶屋。
(昭和三十六年六月)