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九 待伏の茶屋 「浅原 才市」

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Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

わしのうまれわ じごくのうまれ
わたしゃたびいぬ ををすべて
うきよをすごす なむあみだぶつ と
しゃばのせかいも あなたのせかい
さいちが ご正(しょう)の さだまるせかい
ここわあなたの まちぶせのちゃや
             (浅原 才市)

旅犬

 才市のうたを、この会報に書くつもりで、何百とあるものの中から、あれこれとえらんでおりますと、半日たちました。しまいには、才市の中に引きこまれて、どれもよくて決めかねます。

 善導大師の教によれば、才市は、生々流転の凡夫、すなわち地獄からの生まれである。金持ちに飼われたセパードではなくて、何処ともなく迷い来た、旅犬である。諸神諸仏に尾をふっても、善い所のないゆえに、笑われ叱られ通しだ。尾をすぼめてすごしていたら、一匹の犬がいた。これもみすぼらしい犬だが。

親友

 となってくれた。この犬、元来立派なのに、才市と一つになろうとて、身をやつし、なむあみだぶと名のって、生涯のつれとなってくれた。才市にとっては、この生涯のつれは、かけがえもなく尊いものである。おやさまに心とられてみれば、この娑婆は、あなたがしつらえた待伏せの茶屋なのだ。この茶屋に、待伏せにあったのが才市である。茶屋の主に見つけられ、もう迷いの旅は続けられない。

待つ

 あなたは、どれほどお待ちになられましたろう。この生涯全部が、あなたの茶屋、才市が浄土を待つ茶屋。

(昭和三十六年六月)