八 うそ うそ 「浅原 才市」
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もがりかやんな うきよのことを ひっくりかやうて
まよいになるぞ こころしずかに うきよをすごせ
たがいに これをはぎみま正(しょう)
なむあみだぶつ なむあみだぶつ なむあみだぶつ
わしのゆうこと をそをそ
(浅原 才市)
うそうそ
才市は、昭和八年一月十七日、八十三才で亡くなった。この人が、生涯かき綴ったくちあい、今は単にうたと、いっておこう。一首宛(づつ)時折によむ程度では、才市の全人格は伺えないが、中でも珠玉と思われるものを、検討してゆきます。今日のこの一首は、最後に至って、わしのゆうこと、うそうそという一行が光る。
無常
はじめから才市は、信心の人の処世を、人に示した。才市は、浮世-世俗を捨てはしない。むしろ、この世にうけた「いのち」を、この上なく楽しんだ。あるうたに、
さいちゃ どんどこはたらくばかり
と、いっている。互に励みましょうという心である。励むのではあるが、心さわいで、もがき働くのであるならば、それは無信の人の姿だ。念仏の信は、浮世がひっくり返ることもあると、その無常を教えてくれる。世を無常とした上で、無常でない念仏の信を、一本通し、そして心静かに無常の世を励めと、才市はいう。
真実
才市はそういって、称名しながらしまったと思うのである。小慈小悲もなく、偉そうなことをいった。みんなうそです。仏さまだけが真実です。皆、六字の力です。
(昭和三十六年五月)