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四 いたき鞭 「九條 武子」

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Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

ねぎらいも むくいもなくて 新たなる
年は来にけり いたき鞭もち
               (九条 武子)

おめでとう

 雪景色すがしく、新年がまいりました。重い音をして、年賀状が配達される。道理めくことをいう人もあるが、賀状はよきもの、新年はめでたきものである。 そこで、年頭の思いを思います

 年という者が、新しく来たわけだが、この者は、昨年と同じように、きっと鞭をもっている。今までの生きの中で、そう思っても参った自分であります。年というこの者は、色も形もなく、音もなく、ひと日ひと日、すぎてゆく。毎年大晦日になって、さよならとも、おいこらともいわず、去ってしまう。つかみどころのない年という者です。

 それが元旦には、面相を替えて、ヌーとやってくる。年の終り頃、よくぞこの住みにくい世に、ひと年、己が邪心悪心と闘ったお前は、と賞めてもくれぬ。また、心まかせに、煩悩を熾らせた奴じゃ、とあらわに叱りもしない。

 その年と、三十七回目のおつきあいです。聞法とは、形なく甲斐なきものかな。

(昭和三十六年一月)