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三 小賢しき分身 「九條 武子」

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Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

いつとなく 見え隠れして わがあとに
間者めきたる ものの添いくる
              (九条 武子)

間者

 名はぶしつけだが、映画で親鸞というのを、二度見ました。ひどく心に残っているのは、少し足の悪い背かがみの小男です。盗賊の手先になっていて、聖人の様子を窺います。見ていてそして見てからも、妙な気がします。我輩の後にも、こいつがいるようだと、かねてうすうす思っていたので、そいつが現(うつつ)に見えて、飛び出してきたその味のわるさです。

 私をつけてくるのは、殺意ほどのものをもってはいない。小賢しいそいつは、どうも随分まえからいるらしい。

分身

 この間者らしいのは、付け窺うのでなくて、添い唆す役割だ。ある時は前にまわり、またの折は横からでもくる。注意深く私を見ていて、油断するとずる笑いをして、すばやく擽りにくる。

 そいつは、まぎれもなく私の分身のようです。他人様には見えない筈だが、私の目には、チラチラかかる。そいつに擽られると、一切の欲望が陰にこもって湧いてくる。仏の光をそいつはとても眩しがります。

(昭和三十五年十二月)