操作

六 ほろびの玩具 「九條 武子」

提供: Book

Dharma wheel

法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

うつくしき 裸形の身にも 心にも
いく重かさねし いつわりの衣(きぬ)
         (九条 武子)

京人形

 整うた座敷でか、飾った洋間でか、京人形を見たとしよう。ガラスケースも大きいのが、部屋に置いてある。京人形は、女の理想像であるのかもしれない。何ともあでやかではある。


夢みるような 京人形
乙女のような 京人形
匹田鹿子の たもとから 悲しいものが 覗かれる
細い小指の 折れたあと 黄色い乾いた 土の色

 武子さまの作であります。隙間なく粧うたのに、たった一つだけ、隙がある。姿が華麗であればある程、そこが悲しい。女の美しい粧いは快い。恍惚として見る。大きい帯での後姿も、奢らしくいい。たった一つだけ淋しいのは、振りである。あそこには、繕い損ねた悲しさがある。虚飾の悲しさであろうか。重ねても重ねても、中身の出口のごとく、取り残された隙間である。

外賢

 砕けば土塊にすぎない、人形の折れた指の土の色。美しい女の裸形が刹那の春を誇る。所詮、老いさらばえる紅顔である。人の世の営みは、畢竟ほろびゆく玩具。  いいやいいや、そう観念しつつ、今日もまた、いつわりの粧いをこらします。幾重も幾重もかさねては、人の世の掟と、われを許し、粧い粧うては、人の世の掟と、人を斯(だま)し、内は愚にして、外は賢である。はずかしい。

(昭和三十六年三月)