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五 みずからの道 「九條 武子」

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法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

生くる今も 死にての後も われという
ものの残せる ひとすじの道
                (九条 武子)

如月忌

 昭和三年二月七日は九条武子さまの日である。その夕七時半、また来ますといって、去られた。今、その心を推して・・・。

 人さまは、武子の生涯を、厳しいものと申されるかも存じません。武子がきさらぎに去るのは、それにふさわしいものでもございましょうか。こうして生きております今生にも、この後、永遠の将来までも、武子は、白い一筋の道を残してまいります。それは、武子の足跡だけがついた細い道。おぼつかない足どりではございましたけれども、今度はしっかりした歩みになります。

 いいえ、一筋の道を残すと申しましても、武子の過去が、人さまの前で光っているなどと、奢るつもりではございません。もっともっと昔から、武子の道を、歩んでまいりました。人さまが、武子の道を、過りもいたしませんでした。武子も、人さまの道を、踏みも申しませんでした。

われ

見はるかす 雪のひろ野に 歩み来し
われみずからの道 汚しえず

 繕うを得ず、悲しくもあり、誇らしくもある、武子の道でございます。これから後もどのようになりましょうとも、武子は、この道を呈示しながら、その責めを負いつつ、この道の果をまいります。

(昭和三十六年二月)