五 みずからの道 「九條 武子」
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生くる今も 死にての後も われという
ものの残せる ひとすじの道
(九条 武子)
如月忌
昭和三年二月七日は九条武子さまの日である。その夕七時半、また来ますといって、去られた。今、その心を推して・・・。
人さまは、武子の生涯を、厳しいものと申されるかも存じません。武子がきさらぎに去るのは、それにふさわしいものでもございましょうか。こうして生きております今生にも、この後、永遠の将来までも、武子は、白い一筋の道を残してまいります。それは、武子の足跡だけがついた細い道。おぼつかない足どりではございましたけれども、今度はしっかりした歩みになります。
いいえ、一筋の道を残すと申しましても、武子の過去が、人さまの前で光っているなどと、奢るつもりではございません。もっともっと昔から、武子の道を、歩んでまいりました。人さまが、武子の道を、過りもいたしませんでした。武子も、人さまの道を、踏みも申しませんでした。
われ
見はるかす 雪のひろ野に 歩み来し
われみずからの道 汚しえず
繕うを得ず、悲しくもあり、誇らしくもある、武子の道でございます。これから後もどのようになりましょうとも、武子は、この道を呈示しながら、その責めを負いつつ、この道の果をまいります。
(昭和三十六年二月)