九十七 冥から冥へ 「無量寿経」
提供: Book
善人は善を行いて 楽しみから 楽しみに入り
明るみから 明るみに入るのであり
善人業善 従楽入楽 従明(じゅうみょう)入明
悪人は悪を行いて 苦しみから 苦しみに入り
冥(くらやみ)から 冥に入るのである
悪人業悪 従苦入苦 従冥(じゅうみょう)入冥
(無量寿経)
ある時、こんな話を聞いた。ある風呂屋に度々泥棒が入った。よく考えると毎週土曜日から日曜にかけてである。客の物をねらう、いわゆる板ノ間かせぎである。主任の人は、客に責められ通しである。春三月頃から秋も終りまで、まさに土曜日の男に苦労した。
板ノ間稼ぎ
土曜日の男の発見と確認に努力した。その間も一万円、二万円と客はお金をとられる。主任は平身低頭である。ストーブ煙突の穴から刑事は終日見張った。十月後、客に化けた刑事が現場を押えて捕えた。数万円の稼ぎをしたとのことである。
冥に入る
ある婦人が逮捕の報にかわいそうにと言ったら、何がかわいそうだ、こっちの心痛も考えずと叱られた。関係者は、夜もねぬ苦労でしょう。だが土曜日毎に通って来て、人の財布をねらわにゃならぬ業の人、捕えられねばならぬ業が、かわいそうだ。盗られる人は仕合せだ。盗る者は可哀相だ。
(昭和四十三年十二月)