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親友・広兼至道君 9

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親友・広兼至道君。貴方の尊厳無類の仏恩報謝の営みを賛嘆させて頂きます。「藤岡先生、普通ガンの患者は病気のことを告げられていませんから、看護婦さんは患者に言います。

”暖うなったら家に帰れます”とか”涼しゅうなったら元気になられます”とか上手につくろうて看護するのに馴れてます。処が僕みたいに腰のあたりの脊椎三つがくずれてる骨髄ガンで、あと一と月の命と自分で承知している患者の看護の仕方を看護婦さん達は知りません。

”長いことじゃないけ仲良うしょうね”て言うと、看護婦さん困った顔をしよります。”そんな困った顔せんでもいいよ、貴方もその中ぼくの看護が上手になるよ”そう言うて慰めとります」と、にこやかなものでした。

これは主治医の話ですが、”今一度お説教出来る体にしてあげよう。退院してもらうその時は、この大竹国立病院の医者と看護婦一同が、お説教聞かせて貰うて退院を見送ろう”と、申し合われておられたと聞きました。

しかしやがて九月三十日、かけつけられた西念寺の深川倫雄和上さまと共に、貴方の命終に臨むことになりました。

和上さんが貴方の手をとって”五月に父上が喜び既に近づけりとは、今がそのですね”と仰言ると、三度四度貴方はうなずきます。

”声に称名かなわぬその時は、思いの裡を廻らしてナマンダ仏。まだまだ盛大にご報謝がなりますとも言いましたが、今が思いの裡を廻らすご報謝ですね”と和上が仰言るのにも亦、二度三度四度とうなずいて、四十分後の往生でした。

命の際まで離れずご一緒下さる如来さま、大切にと力を傾け尽す荘厳なご報謝、拝ませて頂きました。


藤岡 道夫