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昭和六十一年 2

提供: Book


昭和六十一年歳が改まりました。元日ということで、身に沁み入って偲ばるることがあります。

私共のご開山親鸞聖人八十五才の正月は、元日とその翌日の二日に亘って、西方指南鈔という書物の校合ということをなさっています。

これは親鸞聖人のお師匠、法然さまのお三部経についてのお話、あるいはその御遺言や、ご往生をめぐってのお話などを集められた書物です。 現在では親鸞聖人八十四才、八十五才の折りの筆跡のもの丈がとどめられて、日本の国宝として大切にされています。

書きあげられた西方指南鈔を、一字一字丁寧にご覧になって、字の誤りその他の手落ちがないかとおしらべなさいました。 それが元日から二日と続けられおわりました処で、正嘉元年一月一日、二日とそれぞれ日付を入れられています。

聖人におかれては丁度半年前、大切なお法ご信心の上の事から、お子さま善鸞さまの縁を切られ胸にたっぷり悲しみをきざんで、正月を迎えられています。

この年三月二日に書かれたお手紙には”眼も見えず候”と記められ、きわめて視力が衰えておいでのご容子がうかがわれます。

失明された訳ではありません。八十八才の折り、弥陀如来名号徳という書物を著わされています。 ともあれ元日といえども、ナマンダブナマンダブとお称名され乍ら、お師匠さまを偲ばれ、如来大悲の恩徳を仰いで老齢の身を傾けられます。

壮絶なるご報謝を尽くさるる八十五才のご開山さまで、この年はまた有名な恩徳讃を含む正像末和讃百十四首が成りました。 壮大なご報謝の営みが元旦に開始されているのです。


藤岡 道夫