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吉野秀雄 37

提供: Book

吉野秀雄という歌を詠む人がありました。感ずる所を大胆率直に歌い人間の本性を捉えた歌が数々ございます。

吉野氏は結核・糖尿病・心臓喘息と生涯患われました。奥さんは四人の子を残して胃癌のため亡くなられます。その後、漸く大学を卒業して職場も定まった長男が、精神の異常を来して入院されます。その当時の歌です。

死を厭い 生をも恐れ 人間の
ゆれ定まらぬ こころ知るのみ

患いの体でも父と頼られては、生きていてやらねばとの思いがつのる。かというて、あしたの希みすらつなぎかねる有様に、胸ひしがるる悲しみ心も体も、今は限り。ギリギリの命の際と歌われました。その吉野氏がお念仏のいわれに親しみお法の心に順(したが)い乍ら、こう歌われます。

出づる息の 入るをも待たぬ 命ゆえ
かくあるままに すがらしめたまふ

また、ただ念仏申すのみであります、とも語られています。

阿弥陀さまは極限にある命を見込んで来てくださいます。生き耐え難い思いの中に来て、独りにはしておかないよと、取り込んでくださいます。しぼり出される苦痛に分け入ってくださいます。この命、離してならぬ、お浄土までずうっと一緒していようと来てくださいました。

気がまえも身がまえも、ままならぬ思いの中に満ち満ちて、ナンマンダ仏の如来(おや)さまが、独りきりにはしておかないよ、と来てくださってるのです。大善大功徳の如来さまが、同居していてくださいます。


藤岡 道夫