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ビハーラ 115

提供: Book

ビハーラというのがあります。これは極めて重い病気の人、例えばガンの末期患者など、死のおびえをはじめ、さまざまな精神的な不安をかかえる病人に、仏教の信仰の上から、安息を導く活動といったらいいでしょうか、ビハーラといいます。浄土真宗を中心に熱心に取り組む人たちがあります。

ところで最近、森崎和江という作家の『死の話』という本を読みました。そしてこの本の中に紹介されている石川県能登出身の作家、加能作次郎の「厄年」という作品のことを読みました。

昔は特効薬のない死病といわれました結核にかかり、も早望みを絶たれた娘に向ってその母親が、
「念仏申さっしゃい。今に楽な身にして貰えるさかい」と苦しむ娘の背中を撫でながら、いつでもこう語りかけます。

これに対して、娘はいいます。
「先に行ってるさかい お前さまたちは後から来てくんさいませ」と、うんうん呻きながら答えます。

「おうおう 俺たちは後から行くさかい 先へいって待ってございの。死ぬのではない 生まれ代わらして貰うのやさかい。有難い思うて お念仏申さっしゃい」と、母親は涙ながらに語ります。こんな趣の話です。

病人は心に死の壁が立ちはだかりおびえています。ここに恩愛の情一ぱい母親が、親密にかかわり立ち入って、ナンマンダ仏と如来さまを告げます。離別の悲しみの中にも、れっきとしたご法義の座りから命往きつくお浄土を語ります。今生の別れがみ法(のり)に転じられ、尊くお荘厳されました。


藤岡 道夫