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チェルノブイリ 114

提供: Book

チェルノブイリといえば、ソ連の原子力発電所の爆発事故で知られます。

あれから三年の余を過ぎますが、地元のウクライナ共和国では、事故のあと眼玉のない子豚やカエルのような頭をした子豚など、奇形の家畜が急に増えているそうです。

広島の三十五倍の放射能といわれますが、その八百倍もの大爆発によって生じた放射能の雲が、その日の東風によって西に運ばれました。チェルノブイリから五十キロ離れたコルホーズ・共同農場の例を新聞報道で知りました。

この農場は牛が三百五十頭、豚が八十七頭と小さい規模の共同農場です。ここで原発事故が起きる前までは、奇形の豚はたった三頭生まれただけでした。ところが事故のあと一年間で、六十四頭、昨年は九月までで七十六頭もの頭や手足や眼玉のない奇形の家畜が生まれました。

説教先のお同行に尋ねます。昭和六十一年四月二十六日は、世界最大のニュースが報道されましたが、お判りでしょうか、と。

でも、まずこれがチェルノブイリの原発事故だとのお答えは得られません。忘れます。他人ごとであってみれば、どんな大ニュースとて私の人生の内容(なかみ)となりません。

一年を めぐりて今し 秒針は
妻臨終の 刻(とき)を通過  (毎日歌壇 橋爪 啓)

糟糠の妻を失って一周忌に、歌の作者は臨終の時刻を凝視(みつめ)ています。胸に彫りこみ忘れません。血を分け情ある者の事実です。

凡夫は愛によって生死(まよい)を離れず、と龍樹さまが説かれます。人生生活の実際には、凡夫の煩悩は愛の様相を帯びて濃密だと、如来(おや)さま慈愛の眼差しが及びます。


藤岡 道夫