操作

「昨年骨髄ガンのため 10」の版間の差分

提供: Book

 
(1 版)
 
(相違点なし)

2009年7月29日 (水) 13:51時点における最新版


昨年骨髄ガンのため、四十五才で往生をとげた法友・広兼至道君の一周忌の法要に会いました。十余年間その学場に連なって欣喜随順した彼の恩師、深川倫雄和上の豊かなご讃嘆で貴いご法縁でありました。

往生百日前の六月二十日、至道君は深川先生のお手許に弥勒菩薩のお姿を、キリ絵に仕上げて贈っております。

菩薩像の傍らにスナハチミロクニオナジクテと片仮名で入れておりますキリ絵は線の乱れも見えません。

骨髄ガンで不治の宣告を受けて、そのことを胸に含み周囲に来る人に、残りの命が僅かでご報謝の時間がもう充分にないと語り乍ら、キリ絵のカッターを握りしめて仕上げたものでありました。

ところが九月十二日、私にも弥勒菩薩のキリ絵を贈ってくれました。コバルト治療が始まってから”食欲が落ちるだけでなく意欲が殺がれます”という彼、恐らく最後の気力をしぼったかと察します。

ゴメンナサイ、コレデと渡された作品には、スナハチミロクニオナジクテは、切り入れられていません。細かくカッターを操るのには、指先に力が及ばなかったろうと、その時の彼の無念の心中を思います。

成等覚証大涅槃、私共がなじんでいます正信偈です。ナンマンダ仏とこの身に来て下さった如来(おや)さまと--ご一緒して、私は今や成等覚・正定聚、如来さまのお覚りに同等の位にまき上げられました。

ここを”すなわち弥勒に同じくて”と至道君は喜びました。親鸞聖人と同じ喜びを慶びました。衰えていく気力、指一本の力すらままならぬ命に来て、ナンマンダ仏の如来さまが、離れずご一緒していて下さいます。すなわち弥勒に同じくて、すなわち弥勒に同じくて。


藤岡 道夫