操作

「東京上野動物園で日本猿の赤ん坊が 24」の版間の差分

提供: Book

 
(1 版)
 
(相違点なし)

2009年7月29日 (水) 13:51時点における最新版


東京上野動物園で日本猿の赤ん坊が生まれました。初めての出産をした若い母猿に乳が出ません。乳首を喰わえて赤子は死にます。息絶えた子猿を抱いて五日間、腐ってくずれゆくまで離さなかった母猿の話を聞きました。

二百種類を越えるあらゆる猿の中、寒冷地の北限は本州の北の端、下北半島に住む三群の日本猿で、世界に知られています。海峡を距ててそこはもう北海道、十二月から四月まで半年雪の山です。

暖かい土地の日本猿は八月まで子供を産みますが、下北の雪山の猿は四月に赤子をもうけて、この後もう子供を産みません。

雪の山に木の皮を噛って、命をつなぐのが精一ぱい。こんな食べ物では乳を呑む子猿がいても親猿の乳は出ません。子猿は育ちません。

日本猿の歴史は数万年。本州の最果て下北の猿も、おそらく昔七~八月まで赤子を産んだに違いない。食べ物乏しい雪山に、出もせぬ乳首をくわえて死んでいった無量無数の子猿達。その息絶えた子猿を抱いて、離し切れずして悲しみ啼いた無数無量の母猿達があったに違いありません。

この悲しみの極まりから、下北の山の猿は十二月には生理がとまり身ごもらぬ体になります。死ぬ子を見るに忍びぬ親の体がかわったのでした。慈悲ある側が変わるのです。正しく慈愛のかぎり慈悲の至極と申せましょう。

私の命は死ぬ命、伴う者も代理もなくて、やがてきっと命終ります。この終る命の私に、ナンマンダ仏と親さまが来てくださいました。やがて終りお浄土に参るその時まで、ずうっと一緒に居て下さいます。体力・気力・身構え・気構え、なぁんにもいらぬナンマンダ仏。声に姿を改められた阿弥陀さま、親さまです。


藤岡 道夫