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「先月、お説教に訪れました 102」の版間の差分

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先月、お説教に訪れました鹿児島県の出水(いずみ)平野の一画・高尾町は、古くから飛来する鶴の群で知られ、今年は九五五三羽、史上最高の数に達したそうです。秋の気配が濃くなる頃、大陸のシベリア・中国の奥地から飛来し、春の兆しとともに帰ります。いわゆる北帰行・私が出向きました二月十四日、早くも第一陣が飛び立ちました。
 
先月、お説教に訪れました鹿児島県の出水(いずみ)平野の一画・高尾町は、古くから飛来する鶴の群で知られ、今年は九五五三羽、史上最高の数に達したそうです。秋の気配が濃くなる頃、大陸のシベリア・中国の奥地から飛来し、春の兆しとともに帰ります。いわゆる北帰行・私が出向きました二月十四日、早くも第一陣が飛び立ちました。
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ところで、北海道釧路湿原を中心に、渡りをしない鶴が生息します。世界中に現在一九〇〇羽ほどと見られる丹頂鶴です。仲々数が増えないこの丹頂鶴、ここ十年来少し増えて日本に今四九〇羽居るそうです。日本に住みつく丹頂鶴・卵を産んでは暖めますが、折角孵ったヒナも病気のために大方死にます。丹頂鶴は卵を三十四日抱きます。これを三十日三十一日と親鳥が抱いた所で、人間の手で孵卵器に入れて、人工孵化します。その上、病気の免疫処置をしたヒナを親鳥の巣に返すのです。
 
ところで、北海道釧路湿原を中心に、渡りをしない鶴が生息します。世界中に現在一九〇〇羽ほどと見られる丹頂鶴です。仲々数が増えないこの丹頂鶴、ここ十年来少し増えて日本に今四九〇羽居るそうです。日本に住みつく丹頂鶴・卵を産んでは暖めますが、折角孵ったヒナも病気のために大方死にます。丹頂鶴は卵を三十四日抱きます。これを三十日三十一日と親鳥が抱いた所で、人間の手で孵卵器に入れて、人工孵化します。その上、病気の免疫処置をしたヒナを親鳥の巣に返すのです。
  
子の数が少ない動物は、わが子しか面倒見ません。酷い時はつつき殺しさえすると聞きます。人工孵化のヒナが巣に戻されて、丹頂鶴の親はどうするかといいますと、忽ち羽交(はが)いもし餌を与えて育てます。大丈夫です。少なくとも三十日なり親鳥に卵を抱かせておけば、幾通りか啼き分けながら、卵を抱た親鳥の声は、卵の殻の中のヒナの耳に聞こえ届いております。同時にヒナも殻の中で啼きます。かくて親子は声をもって承知します。互いにまだ見ぬ親子であっても、声を挙げては命の名告りをいたします。親子の命は声をもって連なり結ばれました。
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子の数が少ない動物は、わが子しか面倒見ません。酷い時はつつき殺しさえすると聞きます。人工孵化のヒナが巣に戻されて、丹頂鶴の親はどうするかといいますと、忽ち羽交(はが)いもし餌を与えて育てます。
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大丈夫です。少なくとも三十日なり親鳥に卵を抱かせておけば、幾通りか啼き分けながら、卵を抱た親鳥の声は、卵の殻の中のヒナの耳に聞こえ届いております。同時にヒナも殻の中で啼きます。かくて親子は声をもって承知します。互いにまだ見ぬ親子であっても、声を挙げては命の名告りをいたします。親子の命は声をもって連なり結ばれました。
  
 
名号大行、弥陀は、ナンマンダ仏と声挙げ、私に来てくださいました。ナンマンダ仏と如来(おや)さまは、お宿りごいっしょしていて下さいます。
 
名号大行、弥陀は、ナンマンダ仏と声挙げ、私に来てくださいました。ナンマンダ仏と如来(おや)さまは、お宿りごいっしょしていて下さいます。

2009年7月29日 (水) 18:43時点における最新版

先月、お説教に訪れました鹿児島県の出水(いずみ)平野の一画・高尾町は、古くから飛来する鶴の群で知られ、今年は九五五三羽、史上最高の数に達したそうです。秋の気配が濃くなる頃、大陸のシベリア・中国の奥地から飛来し、春の兆しとともに帰ります。いわゆる北帰行・私が出向きました二月十四日、早くも第一陣が飛び立ちました。

ところで、北海道釧路湿原を中心に、渡りをしない鶴が生息します。世界中に現在一九〇〇羽ほどと見られる丹頂鶴です。仲々数が増えないこの丹頂鶴、ここ十年来少し増えて日本に今四九〇羽居るそうです。日本に住みつく丹頂鶴・卵を産んでは暖めますが、折角孵ったヒナも病気のために大方死にます。丹頂鶴は卵を三十四日抱きます。これを三十日三十一日と親鳥が抱いた所で、人間の手で孵卵器に入れて、人工孵化します。その上、病気の免疫処置をしたヒナを親鳥の巣に返すのです。

子の数が少ない動物は、わが子しか面倒見ません。酷い時はつつき殺しさえすると聞きます。人工孵化のヒナが巣に戻されて、丹頂鶴の親はどうするかといいますと、忽ち羽交(はが)いもし餌を与えて育てます。

大丈夫です。少なくとも三十日なり親鳥に卵を抱かせておけば、幾通りか啼き分けながら、卵を抱た親鳥の声は、卵の殻の中のヒナの耳に聞こえ届いております。同時にヒナも殻の中で啼きます。かくて親子は声をもって承知します。互いにまだ見ぬ親子であっても、声を挙げては命の名告りをいたします。親子の命は声をもって連なり結ばれました。

名号大行、弥陀は、ナンマンダ仏と声挙げ、私に来てくださいました。ナンマンダ仏と如来(おや)さまは、お宿りごいっしょしていて下さいます。


藤岡 道夫