本当のやさしさ みんなの法話
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本当のやさしさ
本願寺新報2001(平成13)年6月10日号掲載
蜷川 祥美(にながわ さちよし)(龍谷大学講師)
3高から3Cへ
え.秋元裕美子
今から三年前の六月頃のことです。
新聞に、一九九八年版厚生白書についての記事が掲載されました。
白書に、若い女性が求める結婚相手の条件が「高身長、高学歴、高収入」の「三高」から「十分な給料(Comfortable)、理解し合える(Communicative)、家事に協力的(Corporative)」の「三C」に変わってきたという記述があるというのです。
バブル全盛時代に学生生活を送っていた私は、当時・テレビに登場する若い女性が「結婚相手の年収は一千万円以上がいいわ」などと話しているのを聞いて、「私には高収入は期待できそうもない。
もしかしたら、一生結婚できないかもしれないな」などと考えたものでした。
あれから時代は変わり、不況が長引くにつれて、「高収入」の男性がいなくなってしまったのでしょうか、「十分な給料」の男性にも「チャンスがめぐってきたのかもしれない」と少し安心したような記憶があります。
しかし、若い女性の求める結婚相手の条件が、身長、学歴、収入などといった外面的なものから「理解し合える」といった内面的なものに変化したということは、結婚相手の男性を選ぶ基準が低くなったということを意味するのでしょうか。
より条件が厳しく...
先日、私の授業を受講している学生さんたちにも、「結婚相手、もしくはパートナーに求める条件」について尋ねてみました。
女性の場合、理解し合えること、やさしさ、相手を思いやる気持ちなどの回答が上位を占めましたが、やはり高収入、仕事のできること、外見の良さなどの回答も目立ち、男性の場合も、理解し合えること、やさしさなどが上位を占めましたが、やはり、容姿、家事のできることといった回答も目立つという結果になりました。
女性も男性も、理解し合えること、やさしさなどといった内面的な条件を上位にあげてはいますが、お金はあればあるほどいいし、家事も相手がやってくれた方がいいに決まっているというようなことではないかなと思います。
そのように考えると、両者とも、収入などの外面的条件に若干の寛容さはみられるものの、相手に内面的な充実といった人間性をより厳しく問うような条件を求めているとも考えられるのではないでしょうか。
これは、外面的な条件が主だった時代より、条件が厳しくなったと考えるべきことなのかもしれません。
私も結婚前までは、相手に対して厳しい条件をつけていたような気がします。
自分が相手の条件にかなう人なのかということにはあまり考えが及びませんでした。
収入面はさておき、お互いに理解しあえて、家事に協力的な男性とは、一言で言えば、やさしい人ということになるかもしれません。
自分がやさしいかどうかと振り返ってみた時、そうではないかもしれないと思いました。
本当にやさしい人にならなければいけないとも思いました。
</p>では、「本当のやさしさ」とはどういうことなのでしょう。
仏教でやさしい方といえば、仏さまのことです。
特に浄土真宗では慈悲の徳をもつ阿弥陀仏のことが思い起されます。
相手と同じこころ
『浄土真宗聖典(註釈版)』の巻末註には、慈悲とは「苦を除き楽を与えること」(1500頁)と解説されており、さらに、『歎異抄』では「あはれみ、いとおしみ、はぐくむ」(834頁)とも示されます。
阿弥陀仏は、智慧の眼ですべてのものの苦しみを見通し、同じこころとなって、あわれみ、いとおしんでくださいます。
またそのように思ってくださるだけでなく、その光で苦しみの現実を照らしてはっきりと知らせてくださり、苦しみを乗り越えていける人となれよ、極楽と説かれる浄土に往生して仏となれよとはぐくんでくださるのです。
「本当のやさしさ」とは、相手と同じこころになって、相手がその苦しみを乗り越えていくようにはぐくむことなのだと、阿弥陀仏のみ教えを聞かせていただいて、学ばせていただきました。
私は一九九九年に結婚しました。
妻と二人で、お互いを理解し、やさしいこころでお互いにはぐくみの中で生活することを理想にしているつもりですが、うまくいかないことも多くあります。
妻にとって、私がやさしい人だと思えたから結婚し、はぐくみの中で日々の生活を送っていると思っているのか、妻がやさしいので私と結婚し、はぐくんでくれているのかさえ、私には理解できないのです。
しかし、このような私たちも、阿弥陀如来の本当のやさしさに気付き、本当のやさしさを目指す人生を歩んでいくことはできるはずだと思うのです。
そして、本当のやさしさに気付く人生は、やさしさに感謝する生活を送ることにもなるでしょう。
夫婦生活も感謝のうちに送りたいものですね。
出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。 |