やらせと真実 みんなの法話
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やらせと真実
本願寺新報2007(平成19)年2月10日号掲載
武蔵野大学助教授 本多 靜芳(ほんだ しずよし)
「ねつ造」のダイエット
納豆でダイエットできるというテレビ番組のため日本中で納豆が品薄! ところが「ねつ造」番組だったとわかりました。
私たちは新聞、テレビ、インターネットなどでさまざまな情報を得ますが、その時すでに、事実とは違った、制作者の意図した姿になっていることがあるのですね。
今回の事件では、マスコミの影響力がいかに大きいかを知らされました。
同時に、全く根拠のないものでも、私たちがいとも簡単に受け入れてしまうことも考えさせられました。
「青年がドライブで事故を起こし、実の父は即死。
青年は重傷。
青年が救急車で運ばれた病院では凄(すご)腕の外科医が待っていた。
ところが青年の顔を見るなり『私の息子だ!』と驚き叫んだ。
この二人の関係を説明せよ」
実は、答えは非常に簡単でした。
「外科医は青年の母親」だったのです。
私たちの日常のものの見方は、それまで親しんできた情報に影響されます。
医者は男性という偏った見方が「女医」という言葉を生んだのでしょう。
私たちは「世間の常識」とされる情報につかっているため、事実を見過ごしたり、思い込みで勘違いをしたりします。
報道されたことは真実と思い込む意識も同じでしょう。
このことが「ねつ造番組」や「やらせタウンミーティング」を生む背景にあると思います。
つまり「ねつ造」や「やらせ」を安易に受け入れてしまう精神性が私たちの中に根深くあると思うのです。
今の状況が過去と酷似
かつて敵味方に塗炭(とたん)の苦しみを与えた"大東亜戦争"という侵略戦争が始まった時、多くの念仏者は賛同し、積極的に協力しました。
また、戦況が悪化しても止められなかったのは、大本営が情報を操作して、事実が伝えられなかったことが要因の一つでしょう。
第二次大戦のドイツの戦争犯罪を裁くニュルンベルグ裁判で、ヒトラーの側近・ヘルマン・ゲーリングは「政策を決めるのはその国の指導者です。
そして、国民は、つねにその指導者のいいなりになるように仕向けられます。
方法は簡単です。
一般的な国民に向かっては、われわれは攻撃されかかっているのだと伝え、戦意を煽(あお)ります。
平和主義者に対しては、愛国心が欠けていると非難すればいいのです。
このやりかたはどんな国でも有効です」と証言しました。
私には今の日本の状況に酷似(こくじ)しているように思えてなりません。
軍隊を放棄した国・コスタリカでは、平和教育を行っています。
その国の紹介ビデオに小学生へのインタビューがありました。
「子どもの権利は何?」「学ぶこと、愛されることです」
「愛することは義務?」「義務じゃないよ」
また、中学二年生に、
「国家を統治している多くの人々は、ある一つの似通った嫌な考えを持っています。
権力を失うことを恐れています」と教えています。
日本では、このような視点が生まれにくくなっていると思います。
「法難」から今年で800年
二月は建国記念日がありますが、国とはなんでしょう?国や権力が事実を無視して人々に弾圧を加えるということが、親鸞さまの時代にもありました。
『顕浄土真実教行証文類』後序の言葉です。
「主上臣下(しゅじょうしんか)、法に背(そむ)き義に違(い)し、忿(いか)りを成(な)し怨(うら)みを結ぶ。
これによりて、真宗興隆の大祖(たいそ)源空法師ならびに門徒数輩(すはい)、罪科を考へず、猥(みだ)りがはしく死罪に坐(つみ)す。
あるいは僧儀(そうぎ)を改めて姓名(しょうみょう)を賜うて遠流(おんる)に処す。
予(よ)はその一つなり」(註釈版聖典471ページ)
念仏のお仲間を「罪の内容を問うことなく、不当にも死罪に処し(中略)遠く離れた土地に流罪に処した。
わたしもその一人である」と言われます。
事実無根の罪で宗祖が流罪になり今年で八百年です。
「世のなか安穏なれ」の親鸞さまのメッセージをどう私が受けとめ、安心して念仏が称えられる社会をどう実現するのか。
それは日頃、私が何に触れているかが大切なことでしょう。
念仏の真実を聞き、虚仮(こけ)・不真実を照らす智慧の光に生き抜くとは、私が少しずつ変わることでしょう。
日暮しの中でいろいろなことに気づかせていただき具体的な行動となることが念仏生活だと思います。
出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。 |