どんな世界を生きていますか? みんなの法話
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どんな世界を生きていますか?
本願寺新報 2009(平成21)年5月10日号掲載
小池 秀章(こいけ ひであき)(京都女子中学・高校教諭)
日本最多安打の頂は
2009年4月16日(日本時間17日)、アメリカのメジャーリーグで活躍しているイチローという野球選手が、張本勲選手の持っていた3085本という日本最多安打記録を更新しました。
その時のインタビューでイチロー選手は、「3085という日本の安打数の頂(いただき)ですよね。
その景色がどんなものなのかっていうのを見てみたかったし、それはとても晴れやかなものだったんですけど・・・」ということを語っていました。
これが私にはとても印象に残りました。
それは、イチロー選手のような一流の人は、私たちとは違う世界・違う景色を見て生きているのだなということを強く感じたからです。
さて、皆さんは今、どんな世界を生きていますか?
恋をすると世界がバラ色になるといいますが、今、バラ色の世界を生きている人はいますか。
もし、おられたとしても、多分その世界はやがて変化してしまうでしょう。
そして、残念ですが、バラ色の世界は錯覚だったと気付く時がくるでしょう。
お釈迦さまに聞くと
以前、こんな話を聞いたことがあります。
二人の男が仲良く旅をしていました。
森を抜けると、遠くにきれいなお城が見えてきました。
一人の男が、「きれいな赤いお城だね」と声をかけました。
するともう一人の男が、「何を言っているんだい。
あれは、きれいな青いお城だよ」と答えました。
「赤いお城だ!」
「いや青いお城だ!」
とお互い一歩も譲りません。
先ほどまで仲良く旅をしていた二人は、ついにけんかを始めてしまいました。
そうこうしていると、向こうからお釈迦さまが歩いてこられました。
そこで二人の男は、お釈迦さまに聞いてみることにしました。
「お釈迦さま、あそこに見えるお城は赤いお城ですよね」
「いえいえ、あれは青いお城ですよね」
二人は尋ねました。
するとお釈迦さまは、「あれは赤いお城でも青いお城でもないよ。
白いお城だよ。
お前たちは、それぞれ赤と青の色眼鏡をかけているから白いお城が赤や青に見えるんだよ」と言われました。
二人の男はあわてて色眼鏡をはずすと、きれいな白いお城が輝いているのが見えました。
その後二人は、また仲良く旅を続けました。
すべての人生が光輝く
この話は、私たちが常にものごとを、色眼鏡をかけて見てしまっていることに、気付かせてくれます。
お釈迦さまは、色眼鏡をかけず、とても晴れやかな世界を生きられた方です。
それに対して私たちは、常に自己中心の心という色眼鏡をかけて世の中を見ており、真実の世界・さとりの世界を知らない、かわいそうで危なっかしい存在なのです。
ある高校生は、大学受験がすべてだという世界を生きていました。
そういう人は、受験に失敗すると、「私の人生、終わりだ」と思ってしまうのです。
数年前、勝ち組・負け組ということが盛んに言われましたが、勝ち負けがすべてだという世界に生きている人は、とてもしんどい人生だと思います。
また、自らの欲望を満たすことがすべてだという世界に生きている人は、人の為(ため)に生きることの素晴らしさに気付けない、寂しい人生でしょう。
このように、それぞれが自分勝手な世界を創(つく)り出して、それに自ら縛られ悩み苦しんでいるのが私たちの姿なのです。
だからこそ自己中心の心を離れた、さとりの世界を聞かせてもらうことが大切なのです。
さとりの世界は、すべてのものが光輝く世界であり、すべての人生が光輝く(すべての人生に尊い意味が与えられる)世界なのです。
そんな晴れやかな景色を仰ぎながら、この迷い多き人生を生き抜いていきたいものです。
出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。 |