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たからもの みんなの法話

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たからもの
本願寺新報2002(平成14)年3月1日号掲載
松山 教宗(まつやま きょうしゅう)北海道・法王寺衆徒
最も大切なもの

え.秋元 裕美子
ある日の夜のことです。
よく行く近所の温泉に行き、露天風呂にゆっくりつかりボーッと風景を眺めていました。
露天風呂は私の貸し切りとなり、ゆったりとしていました。
そこから見る静かな山々、そこに降る雪がライトに反射してキラキラ輝き、とてもきれいでした。
いつの間にか、こういう光景を忘れていたような気がします。
それは何か大切なことを忘れていたような気がしました。

皆さんにも、大切で大事なものがあると思います。
最も大切で大事な人やものなどです。
何か一つはあるのではないでしょうか。
それは人それぞれに違うと思いますし、さまざまあるのではないでしょうか。

私の大切で大事なもの。
それは自分にとって最も大切で大事なものです。
おもう人、かけがえのない人、そして、いろいろなものがあると思います。
その大切で大事なものを私たちは一体何と呼んでいるのでしょうか。
それは「たからもの」といいませんか。
「宝もの」です。
その「宝もの」は、自分の中で光っている一つのものではないでしょうか。

その「宝もの」とは、最も大切な人やものですが、個人により違うと思います。
例えば子どもなら、おもちゃやゲーム。
若い世代では車やバイク、服やブランド品。
年配の世代であれば、仕事やマイホーム、ペットなど。
他にも友だちや恋人、家族...。
そして、趣味などもそうだと思います。

また、お金、命、という方もあると思います。
人それぞれ、最も大切なものは違うのではないでしょうか。

自然からの恵み
私のお寺は北海道の石狩平野にある空知というほぼ道央圏に位置します。
北海道内でもとても夏は暑く、冬は豪雪地帯でマイナス20度以下までなる、ものすごく寒いところです。
道内でも有数の水田地帯であり、農業を産業としている町です。

30年ほど前までは、空知炭山といって日本でも有数の炭坑で栄えた町でした。
門徒さんの多くは農家が多く、お米の他にも野菜やメロン、お花などを作っています。
だいたい春と秋が忙しく、朝早くから夜遅くまで働いています。
そのおかげで実りの季節には、お米やいろいろな野菜をたくさんいただきますので、いつもおいしくいただくことができます。

私たちは食べなければ生きてはいけませんし、食べ物を作らなければなりません。
農家の方も自分の生活のために作物を作ります。
それは自分だけのためではなく、私たちのためにもなっているのです。
その作物は田畑から取れる自然の恵み、実りなのです。

人それぞれに最も大切なものがあり、それを「たからもの」といいました。
普通に漢字で書くと「宝もの」です。
けれど農家の方の最も大切で大事なものといったら作物です。
それは田からの恵みです。
つまり農家の方の「たから」とは、実は「田から」と書くのではないでしょうか。
それは「田からのもの」、だから「田からもの」ではないでしょうか。
自然な田畑からの、大地からの恩恵であり、土、水、太陽、気候、肥料、そして、手間と時間がかかります。
どれも必要な自然と環境と時間によるものです。
農家の方の丹精を込めた作物。
それは「田から」であり、「宝」なのです。

常に照らされ続け
仏教にも「たから」があります。
それは「宝」であり、仏宝、法宝、僧宝の三宝です。
すなわち仏、その教え、それを信ずる人々です。
この三宝は三つの大切な道筋、道理です。
そして、僧宝とは僧侶だけを指すのではなく、サンガといって仏教教団、仏教に関わる人々をいうのです。

三宝は、仏→法→僧(仏から)という方向のみではなく、僧→法→仏(仏へ)という方向も忘れてはならないのではないでしょうか。
仏教を信ずるものは、仏法に出遇(あ)い、仏となる、と味わうことができるのです。

そして、浄土真宗にもちゃんと「たから」はあるのです。
それは「他から」と書くのです。
他とは、他人の他、自分の自ではなく、これらを超えた阿弥陀如来の本願のはたらきをいい、つまり「他力」をいいます。

親鸞聖人は『教行信証』信巻に「他力といふは如来の本願力なり」(註釈版聖典190頁)と述べられています。

まさに煩悩を持つ凡夫が救われるのは、阿弥陀如来のはたらきによるしかないのです。
「他力」、つまり「他から」によるのです。
浄土真宗でいう「他からもの」とは、私たちには決して見えないけれど、常に照らされ続けているという事実です。
阿弥陀如来の智慧、慈悲、それが真実の「他から」であり、光輝く「宝」です。
それは、私たちと共にある「南無阿弥陀仏」なのです。
それが親鸞聖人の教えではないでしょうか。



 出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。
http://www.hongwanji.or.jp/mioshie/howa/