お彼岸をご縁に みんなの法話
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お彼岸をご縁に
本願寺新報2001(平成13)年9月10日号掲載
藤実 無極(ふじみ むごく)(名古屋別院輪番)
尊い仏教行事
え.秋元裕美子
暑さ寒さも彼岸まで―のとおり、厳しい夏の季節が過ぎ去り、しのぎやすい季節の到来に安らぎを感じます。
秋分の日を中日とし、それぞれ前後三日間、計七日間をお彼岸としています。
「彼岸」とは、インドの古い言葉(梵語)でパーラミターといい、「到彼岸」と訳されます。
「迷いの世界である此岸から、悟りの世界である彼岸へと到る」ということです。
彼岸のことをお浄土といってもよいでしょう。
春と秋のお彼岸の中日には、太陽が真東からのぼり、真西に沈みます。
まさに西方十万億土の阿弥陀さまの国、極楽浄土をしのぶという習慣が伝わり、まもられている尊い仏教行事と申せましょう。
すでに聖徳太子(五七四-六二二)の時代からともいわれ、お彼岸は千数百年の昔から日本人の生活に染みこんでいます。
お彼岸期間中は、お浄土をしのび、すでに往生された人、ご先祖を憶(おも)い、お寺参り・お墓参りする習慣が定着しています。
そこで、煩悩(ほしい・にくい・かわいい)にまみれ、自分のことばかり考え、他を顧みないお恥ずかしい、あさましい私たちを、お浄土へ生まれさせ仏にするとはたらいてくださる、阿弥陀さまのみ教えを味わってまいりましょう。
私たちが歩む道
人生は旅ともいわれています。
旅は、どこからどこへ、何のために、が明らかでないと、その旅はむなしい、はかないものになります。
どこへ行くにしても、そこには道があります。
どの道を歩めばいいのでしょうか。
去る昭和四十八年(一九七三)、親鸞聖人御誕生八百年・立教開宗七百五十年慶讃法要御満座のご消息に、前門さま(当時ご門主)は「このような時代に生きる現代人の不安と混迷は、聖人のお勧めくださった念仏の道によって、はじめて乗り越えることができるものと信じます。
念仏の道は『おかげさま』と生かされる道であり、『ありがとう』と生きぬく道であります」とお示しになりました。
そうです。
私たちが歩む道は「お念仏の道」です。
その道はどこへ(方向)向かっているのかというと、お浄土(彼岸)です。
お浄土に生まれて、仏さまになる(成仏)ことが、人間に生まれた大きな目的ではないでしょうか。
多くの道の中から、私にもっともふさわしいお念仏の道を歩みなさいと、親鸞さま、蓮如さま、前門さまが仰せになっています。
その道を、親も、先祖も歩んできたのでした。
お念仏の道は、おかげさまと生かされる道です。
おかげさまで-とあいさつすることがよくあります。
小さなこの私のいのちを、ここまで生かし、育てていただきました。
しかもお念仏を心の依りどころとするのですよ、と仏さまのお慈悲のぬくもりを感じます。
そして、ありがとうと生きぬく道です。
ありがとう―と、一日に何回も口にします。
また他人からありがとうと言われることもよくあります。
日本語の中でも、ありがとうほど言う方も、言われる方も気持ちのよい言葉はありません。
私たちは何気なく口にしますが、ありがとうの一言を言ってもらうことは、容易ではありません。
努力して苦労したり、親切にお世話したときに、言ってもらえます。
反対にこの私のために努力してもらったり、お世話になったときに、ありがとうとお礼を言います。
ありがとうは、幸せのあいさつです。
一回でも多くのありがとうを口にし、一回でも多くありがとうと言われる人は、きっと幸せではないでしょうか。
大安心の日暮らし
お念仏(南無阿弥陀仏)こそ、仏さまにありがとうございます―とお礼のごあいさつをしていることといえます。
ですから、お念仏申す人こそ本当の幸せ者なのです。
大切なことは、「なもあみだぶつ」と称(とな)えることなのです。
手を合わせ黙ってお礼だけするのをよく見かけます。
たとえ小さな声でも「なもあみだぶつ」と称えてください。
その声を一番最初に聞くのは、自分です。
お念仏申すことが恥ずかしいと思っている人がありますが、実はお念仏申さないことの方が恥ずかしいのです。
お念仏の道は、お浄土に向かう道です。
それは私のいのちの方向を示しています。
迷うことはありません。
お念仏を称え、強く明るく生きぬきましょう。
故山本仏骨和上が「いまがお浄土への道中で、息が切れたときが、お浄土へ着いたとき」と、ご法話で話されたことを懐かしく思い出します。
それはいつ死んでも、いつまで生きても大丈夫という、大安心の日暮らしができるということを言われたのだと受け取っています。
私たちは、二十一世紀の今日、背筋を伸ばし、胸を張って、お念仏の道をおかげさま・ありがとうを合い言葉に、お浄土へ向かって歩みましょう。
お浄土こそ本当の理想がかなえられる世界です。
「本願を信じ念仏を申さば仏に成る」(註釈版聖典839頁)という浄土真宗のみ教えを、秋のお彼岸をご縁として味わいたいものです。
出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。 |