操作

おかげさまの心 みんなの法話

提供: Book


おかげさまの心
本願寺新報2001(平成13)年10月20日号掲載
常木 惠證(じょうぎ えしょう)(滋賀・金徳寺住職)
今一度考え直す時

え.秋元裕美子
ここ数年、青少年の凶悪犯罪が目立って増えてきたことを思いますと、本当に悲しい限りです。
物に恵まれ、自己中心的な考え方が強く、思い通りにならないとすぐキレる若者が多くなってきました。
その原因は、何事にも我慢ができないことだと思います。

私は三十六年間、教職に携わってきましたが、いつも生徒たちに、「忍をもって鎧(よろい)となす」(龍樹菩薩が著したといわれる『大智度論』の中の一節)という話をします。
忍とは、どんな苦しみに対しても決して負けない泰然とした態度のことをいいます。
すべてのことは、偶然に起こるのではなく、必ずそれには原因と結果があるはずです。
その原因、結果の関係が確認できれば、困難に出合っても忍耐ができます。
自分自身のありようをしっかり見つめることを忘れてはならない、と生徒たちに教えてきました。

私が幼少の頃は、祖母や両親からおかげさまの心を教わってきました。
居間には、「ありがたい もったいない おかげさま」と書いた紙が貼ってあり、人々の会話からもそうした言葉がよく聞かれました。
近頃の家庭では、このような感謝の心、お念仏の心が忘れられているのではないでしょうか。
自分一人の力で生きているのではない、あらゆる物、人のおかげで生かされていることを、今一度考え直す時ではないかと思います。

生徒指導においては、生徒たちに今、自分のなすべきことは何かを考えさせ、目標に向かって日々努力を積み重ねることがいかに大切であるかを話します。
宇宙飛行士の若田光一さんは子どもの頃、アポロ11号が世界初の月面着陸に成功したのをテレビで見て以来、将来は宇宙飛行士になるんだと心に決め、難関を乗り越えてついにその夢を実現した人ですが、まず自分の人生に夢(目標)を持ち、その夢を実現するために努力を続けるということが大切です。
また、私たちはいくつになっても自分の立場でしかものを考えません。
時には自分を知るために、自分の置かれているところから離れてみると、視野が広がるだけでなく、感謝の心が生まれ、自分の周りの人と好ましい人間関係を築くことができると思います。

準優勝のかげに
この夏、私が校長を務める近江高校の硬式野球部が、第八十三回全国高校野球選手権大会において準優勝を果たしました。
これは滋賀球史始まって以来の快挙であり、県民に大きな夢と感動を与えてくれました。
昨年、一昨年と滋賀大会の決勝戦で破れ、今年こそはと春から甲子園を目指して鍛錬を積み重ねてきました。
多賀章仁監督の指導のもと、野球の技術だけではなく、メンタル面にも心掛け、全選手が一丸となったチームプレーは本当に素晴らしいものでした。
キャプテンをはじめ、全員が「感謝の心」を忘れずに努力してきた結果が実を結んだと思います。

三年前にも甲子園に出場しましたが、その時の地方大会の開会式において、キャプテンが念珠を手に掛け、「今、ここに野球が出来ることを心から感謝しています」と宣誓したことを覚えています。
常に親、先生、自分たちを取りまく多くの人たちのおかげによって野球が出来ることの幸せを感じていたのでしょう。

また、いつも笑みを絶やさない選手たちの表情は、全国から賞賛されました。
和顔愛語(わげんあいご)という言葉がありますが、明るい、にこやかな顔は人の心を和ませ、温かい人間関係をつくるものです。
今、私たちには、この笑みの心が欠けているように思われます。
あたりまえが先立ち、おかげさまが忘れられ、物欲に目がくらみ何事も自分の物差しで測ってしまう人間の浅はかさを思うとき、本当に悲しい思いがします。

真実の自分の姿
人間は勝手なもので、直接自分自身にこうむった恩に対しては、素直に「ありがとう」と言えますが、そのかげとなって支える数多くの恩に対しては、なかなか気付かないものです。
生かされ支えられている私の存在が確認できたとき、あらゆるものに対する恩を感じ、おのずから感謝の念がうまれてくると思います。

親鸞聖人は「悪性(あくしょう)さらにやめがたし こころは蛇蝎(じゃかつ)のごとくなり」(註釈版聖典617頁)と自己を深く追究されました。
人間は誰しも自分のことは棚に上げ、他人のことばかりが気になるものです。
そして、欲が多く、怒り、腹立ち、そねみ、ねたむ心が死ぬまで絶えない身でありながら、恥じることすら知らないありさまです。

このような私を必ず救いとり捨てないとの願いを、如来さまはお念仏にこめて届けて下さいました。
長い迷いの時を隔てて今、お念仏によって真実の自分の姿に気付かせていただいたとき、あさはかな私を何とかせねばおかない如来さまのお慈悲にただおまかせするほかありません。

いつもお念仏の中に住まわせていただき、必ず浄土に往生させてもらう身の幸せを感じつつ、しっかりとした足取りで人生を歩ませていただきたいと思います。



 出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。
http://www.hongwanji.or.jp/mioshie/howa/