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いろはにほへと みんなの法話

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いろはにほへと
本願寺新報2002(平成14)年8月1日号掲載
浄土真宗本願寺派総長 武野 以徳(たけの いとく)
力で立つ者 力で亡びる

<pclass="cap2">  つゆとおち
  つゆときへにし
  わがみかな
  難波(なにわ)の事もゆめの又ゆめ

豊臣秀吉は、貧しい中から天下統一を成し遂げ太閤という最高の位を極めました。
文化面でも、この秀吉の時代に、絢爛(けんらん)豪華な桃山文化を創ります。
もちろん自分が創ったわけではありませんが、当代随一の工匠、画家、彫刻家に命じて、存分にその力を発揮させたとのことです。

能も茶道も、この時代にはほぼ完成したといいます。
わずか三十年たらずの間に数々の文化を創った功績は偉大なことです。

西本願寺には、秀吉ゆかりの聚楽第や伏見城の遺構と伝える飛雲閣や書院などがあり、国宝として、また境内の全域が世界文化遺産として登録されています。

秀吉は、六十二歳で世を去るのですが、最後は冒頭の辞世の歌を残し、頼みにしていた徳川家康をはじめとする五大老に「返す返す秀頼の事をたのみ申し候」と親心を託します。
しかし、十数年後には家康によって豊臣氏は大坂城とともに炎の中に滅亡していきます。

織田信長は、若くして今川義元の大軍を桶狭間の戦いで破ります。
「人間五十年、下天(げてん)の内をくらぶれば、夢まぼろしのごとくなり」と謡(うた)って出陣しました。
しかし、天下統一を目前にして、本能寺にて側近・明智光秀の叛(はん)乱に遭い殺されます。

鎌倉に武家政治をはじめた源頼朝も同じ道をたどってゆきます。
肉親の源義経を仇のように追い落とし、我が子・源実朝は縁者に誅殺(ちゅうさつ)されます。
源氏の将軍はわずか三十年ばかりで滅亡してゆきます。
「力で立つものは、力で亡びる」ことは、歴史が証明しているところです。

依りて立つ人生とは何でしょうか。
親鸞聖人は、幼少のときに父母と別れて出家し、比叡山で苦しい修行をされて青春を過ごされ、二十九歳のときにお念仏の教えに帰依されました。
以後は、念仏停止と流罪などの困難な状況の中から、「拠りどころとなる真実」に生かされ、念仏もうす人生を歩まれたのです。

辞世の歌は「われなくも法(のり)はつきまじ和歌の浦あをくさ人のあらんかぎりは」であったと伝えられています。

今日の一息、この生命は、永遠の中に生かされてゆく喜びと安心に立脚されたものであります。

人生の依りどころ
先般、ある書家から扁額をいただきました。
「いろは匂へど散りぬるを」と書かれてありました。

いわゆる弘法大師が作ったとされる「いろは歌」です。
「色は匂へど」とは、美しく咲く花のことです。
その美しい花も日ならずして色香を失い枯れ落ちてゆきます。
「散りぬるを」の姿は、万物の姿でありましょう。
「わが世たれぞ常ならむ」。
人生も無常です。
有名な「平家物語」の初めの文は「祗園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色 盛者必衰の理(ことわり)をあらはす」は、あまりにも有名な名文です。

文豪・吉川英治が『平家物語』を書いたのも、この無常を言いたかったのでしょう。

ところで、蓮如上人の「白骨の御文章」はあまりにも流麗として、わかりやすく語りかけて下さいます。

「それ、人間の浮生(ふしょう)なる相をつらつら観ずるに、おほよそはかなきものはこの世の始中終(しちゅうじゅう)、まぼろしのごとくなる一期(いちご)なり。
さればいまだ万歳(まんざい)の人身(にんじん)を受けたりといふことをきかず、一生過ぎやすし。
いまにいたりてたれか百年の形体(ぎょうたい)をたもつべきや。
われや先、人や先、今日ともしらず、明日ともしらず...」

(註釈版聖典・千203頁)

いつも聞かせていただくご文であります。

この「無常」の原点は、お釈迦さまが説かれたものです。

すなわち、仏教は「三法印(三つの真理)」を教えています。

(1)
諸行無常―色は匂へど散りぬるを

(2)
諸法無我―我が世誰ぞ常ならむ

(3)
涅槃寂静―有為の奥山けふこえて 浅き夢見じ酔ひもせず

花は咲けどもやがて散る、生命も生まれてやがて散る。
万物必滅の道理は古今をつらぬいて変わらぬ真理です。
その中で、喜び、泣き、憂い、悩む、悲喜こもごもの愛憎図が繰り返されます。

しかし、それだけで終われば寂しい人生です。

命の不思議かみしめて
昨年の七月から上映されている児童向きアニメ映画「千と千尋の神隠し」は、まだ各地で上映されており、映画史上最高の入場者ということで、近くアメリカなどでも上映されるとのことです。

このアニメの監督・宮崎駿さんがテレビの対談で「仏教・東洋の思想を根底にして作りました。
子どもが楽しめながら為になる映画です」と言っておられます。

<pclass="cap2">主題歌の一節に
生きている不思議
死んでいく不思議
風も街も花もみなおなじ

とあります。

生命の不思議をかみしめて、本当の生き方をしようと教えている映画です。
無常・煩悩・愛ということを知る大きなきっかけとなる映画です。

親鸞さまは、せっかく生まれた人生、南無阿弥陀仏のお念仏を依りどころに、尊い生命を完全燃焼していこうと勧め、真実に生きる道を教えられているのです。



 出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。
http://www.hongwanji.or.jp/mioshie/howa/