ありがとうのパワー みんなの法話
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ありがとうのパワー
本願寺新報2006(平成18)年1月20日号掲載住職課程専任講師 藤澤 信照(ふじさわ しんしょう)高橋選手が見事復活!少し前の話になりますが、昨年十一月、東京国際女子マラソンで見事、復活優勝した高橋尚子さんの力走する姿に、感動された人も多かったのではないでしょうか。
</p>ちょうど二年前のこの大会に、アテネオリンピックの出場権獲得を目指して出場した彼女は、予告どおりぶっちぎりの独走で終盤を迎えながら、三十五キロ過ぎに突然失速、ついに後続の外国人選手に抜かれて二位となり、アテネオリンピックへの出場を逃したのでした。
</p>これまでシドニーオリンピックでの金メダル獲得をはじめ、数々の栄光を勝ち取ってきた彼女にとって、この結果はそれからの苦難の日々の始まりでした。
しかし、彼女はけっしてあきらめることなくマラソンを続け、復活へのスタートは、自分のマラソン人生の時間を止めた、この大会しかないと決めていたのでした。
</p>マラソン選手として、たぐいまれな素質にめぐまれた彼女ですが、他人には真似のできないくらいの〝練習の虫〟でもあります。
そのたゆまない練習を支えていたのは、走ることが好きだということと、さらには素晴らしい人間性なのだと、この大会で走る彼女を見ながら、あらためて教えられました。
</p>〝感謝力〟は彼女の一番中継をご覧になっていた方も多いと思いますが、いつものレースと違って、終盤まで集団に混じって走っていた彼女が、一気にスパートをかけたのは、二年前の大会で失速した場所付近でした。
そこからゴールまで、彼女の一人旅が始まるのですが、その時、解説をされていた増田明美さんが、「きっと彼女は今、沿道で応援してくださる方々に、心の中で『ありがとう』と言いながら走っていると思います。
彼女の一番の大きな力は『感謝力』なんですよね」とつぶやきました。
</p>感謝力...、その言葉を聞いた時、なんと素敵な言葉なのだろう、と私は思いました。
</p>そして、一位でゴールした彼女は、インタビューに「とても楽しい四十二キロでした」と笑顔で答えたのでした。
</p>一生懸命に走り続けながらも、いつも感謝する心を忘れない。
東京マラソンの厳しいコースを走り抜きながら、それを「楽しい」と言わしめるもの、それこそ彼女にとっての大きな「感謝力」なのだと思いました。
</p>枝毛ちゃんありがとうそれからしばらくして、たまたま見ていたトーク番組に、タレントのベッキーさんが出ていました。
子どもからお年寄りに至るまで、幅広い年齢層の人たちに慕われている彼女の魅力は、なんといってもその明るさ、元気にあります。
</p>番組の中で、いつも元気でいられる秘訣について尋ねられたとき、彼女は「毎朝、必ず、お世話になった人のことを思い浮かべて、心の中で『ありがとう』と言ってから家を出るようにしています。
すると元気が出てくるんです」と答えました。
</p>それから、彼女が出している写真集を見せてくれたのですが、その中で、自分の似顔絵を描いているページを紹介してくれました。
そのページには自分の似顔絵のまわりに、たくさんのお世話になった人や、ものを描いているのですが、その一つに松葉のようなものがありました。
</p>実は、それは松葉ではなく、「枝毛ちゃん」でした。
彼女は、枝毛は「ちゃんと髪の手入れをしなきゃだめよ」と教えてくれるから、「枝毛ちゃん、ありがとう」と、ここに描き入れたのだと話してくれました。
</p>ふつうは嫌がる枝毛にも「ありがとう」って言えるなんて、若い子なのにすごいなあと感心しながら、彼女は家族の愛情をいっぱい受けて育ってきたのだろうと思いました。
</p>「みほとけの めぐみをうけて 心にみちる ありがとう...」という歌詞ではじまる高田敏子さん作詞の仏教讃歌がありますが、「ありがとう」という言葉は、人生を心豊かなものにしてくれる、大きな力を持った言葉なのだと、あらためて教えられました。
出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。 |