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『まっててね』 みんなの法話

提供: Book


『まっててね』
本願寺新報2002(平成14)年6月20日号掲載
布教使 筒井 香春(つつい こうしゅん)
絵本が語るもの

この頃、ご法話の中で、絵本を読ませていただきます。

おとなに絵本? お寺で絵本? と思われるかもしれません。
私も、そう思っていました。
ところが、実際に、みなさんと一緒に読んでみると、絵本の世界に多くの方が引き込まれているようです。

『まっててね』(文・シャーロット・ゾロトウ、絵・エリック・ブレグヴァド、みらいなな訳)は、小さな女の子が主人公です。

このお話は、私に《阿弥陀さまに見護(まも)られ、待っていただいている私》を教えてくれました。

女の子には、かあさんと結婚したねえさんがいます。
そのねえさんが、実家で過ごして、帰っていきます。
ねえさんにはできることやわかることが、小さな女の子にはできませんし、わかりません。

ねえさんと自分をくらべた女の子は、かあさんに言います。

<pclass="cap2">「だから まっててね。

きっと いろいろなことができるようになって
かあさんにあいにくるわ」
すると、かあさんが、こたえます。

「まってるわ。

あいたくなったらいつでも きてね。

いまは できないことが
たくさんあるけれども
ちゃんと できるようになるのね。

なんて うれしいんでしょう。

あなたがいるってことだけで
かあさん しあわせなのに!」

安心の中で自信が育つ
私たちは、それぞれの環境の中に生まれてきます。
だから、そこに生まれた私は、その環境の常識なり、習慣を身につけることで、一人前とみなされていきます。
生まれたときから、いろいろなことができる私たちではありません。

おとなになるための道のりを歩くのは、子ども自身です。
しかし、子どもが育つための環境を整えていく、これは、まわりのおとなに負うところが多いと思います。

子どもが安心を感じる。
同時にそれは、おとなにとっての安心でもあります。
安心の中で、自信が育てられ、またその自信が、安心をさらに心地よいものにしてくれる。
そのような循環の中で、子どもは一回りずつ大きくなれるのではないでしょうか。

おとなの見護り方、待っていてくれる存在への信頼、今求められているのは、このようなことではないかと思います。
即効性が基準の現代だからこそ、《見護って待つ》ということを見直す時期でもあるのかもしれません。

ヒトは、待たれている私であると知らされる中で、人となっていくように私は思います。
待ってくれている人を、私のことで、これ以上悲しませたくはないと思えるかどうか。

そして、私自身が〈何を待っているのか〉です。
おとなになるということは、老いへの道のりであり、死への道中です。

この世のいのちが終わったならば、私のいのちはどうなるのか。
人は、その問いを不安として、かかえて生きています。

人生で最も大切なこと
《おそだて》ということばは、お寺で憶(おぼ)えたことばのひとつです。
浄土真宗の教えの中で、このことばが育(はぐく)まれてきました。

この世にいのちをいただいている間は、おとなも育ちざかりです。

毎日の生活の中では、いろいろな悩みがあります。
その悩みをどういただいていくのか。
ひとつひとつの経験が、昨日までの私に気づきをもたらし、今日の私をつくり、明日の私へとつながっていきます。

先日、あるお寺の永代経のご縁に遇(あ)わせていただきました。
子どもの頃、坊守さまに勉強を見てもらっていたお寺です。
かつての隣近所だった人たちが久しぶりに集まりました。

お寺は、多くの出会いが再生されていく場所です。
よろこびの場所です。
それは、人との出会いだけでなく、真実の教えとの出遇いの場でもあり、私自身との出遇いの場所をも意味します。

この世のいのちに限りがありながら、いつ、どこで、どのような形で、現世と別れていくのか、誰もわかりません。

だからこそ、「なんぢ一心に正念にしてただちに来れ、われよくなんぢを護らん」(註釈版聖典224頁)という、阿弥陀さまの願いが、はたらきがなかったならば、生きていくことも死んでいくことも、私にはできません。

みなさんは、どうですか?

お念仏をいただく。
それは、如来さまからの《救い護っているよ》とのよびかけに目覚め、《見護って待って》いただいているお礼と申し訳なさを言わずにはおれない私に転ぜられること。
そして、そのことを思うことすら私の力ではなかったと知らされる体験です。

人生において最も大切なことは、如来のはたらきの中で、真実の教えに遇い、その教えに生かされていくことにつきるように思います。



 出典:「本願寺ホームページ」から転載しました。
http://www.hongwanji.or.jp/mioshie/howa/