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十八 華やぐ命 「岡本 かの子」

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法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

年々に わが悲しみは 深くして
いよいよ華やぐ 命なりけり
         (岡本 かの子)


 かの子は、昭和十三年、四十七才で亡くなった。東京郊外に生まれ、岡本一平と結婚した歌人である。一平は、日本漫画の先達であった。この歌は、晩年のものとはいっても、老人ではないわけです。

 かの子は何か特別に、悲しいことを、この歌で示すのではない。人はどなたも苦労をおもちです。今は悲しい苦労の歌ではない。苦労と苦悩とはちがう。苦しみを重ねた人が、必ずしも宗教には、近づかない。悩みの心が、はじめてその人を、宗教に導く。特に何かの事件がなくても、宗教の智慧は、悩みをもつ。かの子の悲しみは、かの子の業苦の悩みである。

年々

 年を重ねるということは、楽しいものである。女の年を多くいうと、怒る女がある。あの心は全く解せぬ。青春がそれ程よいものであろうか。

 心貧しい美人よりも、年にもまして、心つややかな老女を美しいと思う。体はどうせどうせ偽っても、干大根のようになりますわいな。

 老醜の人になるか、老熟の境になるか。いのちの華が、身と共に廃れるか、心と共に華やぎ咲くか。それは、若い今日を、悩んでゆくかどうかにかかる。せっかくの命をかみしめて、ふくよかな命に進みたい。

(昭和三十七年三月)