「十九 閉された生涯 「俚 言」」の版間の差分
提供: Book
細 |
細 (1版 をインポートしました) |
(相違点なし)
|
2016年10月4日 (火) 17:36時点における最新版
仕合せは いつも花さく 春四月
女房十八 わしゃ二十 遣って減らぬ
銭百両 死なぬ子 三人 みな 親孝行
胎生
花が咲きます。木々の芽がふくらんで、やぶれて、ほほえむような、淡緑色に伸びはじめます。いい季節です。
やわ肌の 熱き血潮に ふれも見で
淋しからずや 道を説く君
(与謝野 晶子)
方便化土へのいざないが、迫ります。大人数の仕事で、たった一人の欲っぱりが、私有の権利を固く守りますと、ハタと事業は行き詰まりです。銭を減らすまいとしがみついていますと、多くの人は、もう四、五年か、十年がまんしょう、いずれ年寄りだから、長くはない。あれが死にさえすればいいと、待っています。
ああよかった、銭を守ったと思って安心していると、人はみんな、その人の死を待って笑っています。早く死んで了(しま)えとおもわれながら、至極いばってくらしています。ひょいとすると、元気なわが子が、親孝行と寸分かわらぬ真似をして、まことにひそかに、まことに真剣に、老人の死を待っては居まいか。
胎生は、浄土のことばかりではありますまい。仏の風景を、見ることができない生涯です。仕合せという、なまぬるい昨日今日に、目が眩みます。まだわしゃ二十と思っています。片目で見る景色です。
化生
仕合せの垣根の中で、満足すること勿れ。真実報土の仕合せは、広い世界である。
(昭和三十七年四月)