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み教えを鏡として<br/>
本願寺新報2003（平成15）年9月10日号掲載<br/>
本山・布教研究専従職　藤下　慈昭（ふじした　じしょう）<br/>
ありのままの姿<br/>
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本山では一日に二回、国宝の「鴻（こう）の間」や「北能舞台」「白書院」などが見学できる書院参観が行われています。<br/>
その中で最後に案内されるのが、特別名勝に指定されている枯山水（かれさんすい）「虎渓（こけい）の庭」です。<br/>
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先日、参観者の方々にまじって見させていただいたのですが、庭木や庭石が見事に調和した日本庭園というのは本当に美しいもので、世間の喧騒（けんそう）を離れて、ひとときの安らぎを感じておりました。<br/>
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けれども、その美しい庭園を眺めながらホッと一息ついている私自身の日常をふと振り返ってみますと、そこには、なかなか心穏やかにはいられない自分の姿が見えてまいりました。<br/>
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ホッと一息つきながら、ホッと一息つけない日々の生活を振り返るというのはなんだか矛盾した話です。<br/>
少し見方をかえて、心穏やかにいられないことが、このひとときの安らぎを成り立たせていると考えると、なんとも皮肉なものに感じられます。<br/>
しかし、そんな矛盾を抱えているのがわたしたちの〝ありのままの姿〟なのではないでしょうか。<br/>
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仏教では「人生は苦なり」と説かれています。<br/>
言い換えるなら、生きていくということは「なかなか思うようにならない」ということです。<br/>
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消極的な意味でない<br/>
仏教で説かれているこの「まことの言葉」からすると、私たちがなかなか心穏やかにいられないのは無理もないことでしょう。<br/>
けれども、そう聞かされると、どうしても消極的な意味に受け取ってしまうのが人情というものです。<br/>
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しかし、「人生は苦なり」というありのままから目を背けずに、心の据（す）わりとして踏まえていくならば、「思うようにならない」ということが決して消極的な意味ではないことに気付かされます。<br/>
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みなさんは甲子園で行われる夏の高校野球全国大会をよくご存じのことと思います。<br/>
地方予選からスタートして深紅（しんく）の大優勝旗を手にできるのは全国でたった一校だけです。<br/>
高校球児は「思うようにならない」ということを身にしみて感じていることでしょう。<br/>
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しかし、精神的にも肉体的にもギリギリの状態で、最後の一球まで、決して、決して諦めないのは、「思うようにならない」からこそ湧き上がる、くじけない心があればこそなのではないでしょうか。<br/>
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また、絶対に負けたくないと心の底から思っている両者が、試合終了と同時に、どちらからともなく手を差し出し健闘を讃（たた）えあうのは、「思うようにならない」ことに立ち向ったお互いの心が通じ合ったからなのではないでしょうか。<br/>
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人生には楽しいこと、嬉しいことがたくさんあります。<br/>
しかし、それにもまして思い通りにならないこと、心が萎（な）えてしまうようなことがたくさんあるように思います。<br/>
いつも心穏やかでいたい、悩みや心の煩わしさはなるべく避けて通りたいというのが私たちの正直な気持ちでしょう。<br/>
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しかし、仏教では、ありのままを見つめ、ありのままに受けとめることがとても大切なことだと説かれているんです。<br/>
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鏡には三つのはたらき<br/>
親鸞聖人がたいへん尊敬された中国の高僧に善導大師という方がいらっしゃいます。<br/>
その善導大師は阿弥陀さまのみ教えを〝鏡〟に喩（たと）えられています。<br/>
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鏡には、私たちの姿が「うつされ」「知らされ」「正され」ていくはたらきがあります。<br/>
つまり、阿弥陀さまのみ教えを聞くということは、鏡に我が身の姿をうつすが如く、ありのままの自分の姿がうつされ、知らされ、正されていくということではないでしょうか。<br/>
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私たちは、阿弥陀さまのみ教えを鏡として、自分にとって都合の良いことだけでなく、都合の悪いことからも目を逸（そ）らさないことが大切です。<br/>
そして、そこから、思い通りにいかなくともめげることなく、思い通りにいっても驕（おご）ることのない人生が拓かれていくのです。<br/>
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