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「唯除」のこころ<br/>
本願寺新報2006（平成18）年6月20日号掲載<br/>
布教使　桐野　仙照（きりの　せんしょう）<br/>
どこか納得しきれない<br/>
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唯除―。<br/>
「ゆいじょ」と読みます。<br/>
「ただのぞく」という意味です。<br/>
何を除くのかというと、すべての衆生を救うと誓われた阿弥陀さまのご本願「第十八願」のご文（もん）の中に「ただ、五逆罪のもの、非謗正法（ひほうしょうぼう）のものは除く」とあるのです。<br/>
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　「五逆罪」とは、親を殺す、仏さまを傷つけるなどの、特別に重い五種の罪のことです。<br/>
「非謗正法」とは、仏法をそしること。<br/>
仏さまも、仏さまの説かれた法もつまらないなどと言い募ることです。<br/>
生きとし生けるものすべてをもらさずに救うというお誓いなのですが、この二つの罪を犯す者は救われないとおっしゃっているのです。<br/>
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しかしながら、ご開山・親鸞聖人も、そして他の高僧方も、このお言葉は「抑止門（おくしもん）」であり、文字としては「除く」と説かれていますが、実際には「救う」というお誓いなんだ、ということを論理立てて明らかにお示しくださっています。<br/>
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けれども、私は正直なところ、「お経にはしっかり『除く』と説かれてあるのになあ」と、どこか納得しきれずにいました。<br/>
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そんなある時、この「抑止門」についてのご法話で、「親なればこそ、『除く』とも言わねばならんのじゃ」というお言葉を聞き、やっと「ああ、これか」と私は受け取ることができました。<br/>
そして自分自身の幼かった頃の一つの出来事を思い出したのです。<br/>
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キャベツがむちゃくちゃ<br/>
まだ、小学生の頃、食事に使うナイフで、いたずらをしたことがありました。<br/>
家の畑のキャベツに、このナイフを投げつけ、的当て遊びをしていたのです。<br/>
せっかく育ったキャベツは、むちゃくちゃになってしまいました。<br/>
何が面白かったのか、今にしてみればよくわかりませんが、とにかく、そこにあるだけ全部を、同じように使い物にならなくしてしまいました。<br/>
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そして夕方、母がたぶん夕食にと、キャベツを取りに畑へ行き、そこで私の仕業を目にしたのでしょう。<br/>
血相を変えて家に戻ったかと思うと、有無を言わぬまま私を畑へ連れだし、事情を問いつめました。<br/>
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私は何とも答えようがありませんでした。<br/>
その時初めて、自分のしたことの重大さに気がついたのです。<br/>
その瞬間まで、自分が何をしたのかさえ忘れていました。<br/>
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「出ていけ！」<br/>

母のあんな恐ろしい、悲しい顔は、見たことがありませんでした。<br/>
母は「許す」ことをしませんでした。<br/>
追い出された私はというと、家から少しだけ離れたところで、どこへも行けず、どうすることもできないまま、何分か、何時間か、立ち尽くすしかありませんでした。<br/>
どのくらいたった頃か、祖父が迎えに来て、母にとりなしてくれたのを憶えています。<br/>
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わが子なら親ならこそ<br/>
母のしたことは、正しいことです。<br/>
いや、親であるがゆえに、ああしなければならなかったのです。<br/>
今は私も親という同じ立場ですから、自分の子どもに対して母と同様にするでしょう。<br/>
もしこれが、よその子のことなら、注意はするでしょうが、きっとそこまでです。<br/>
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「我が子」だから。<br/>
親ならば、何より、我が子が間違いを犯していくのを、黙って見過ごすことはできないのです。<br/>
「出ていけ！そんなことをするのは、うちの子ではない！」と言わねばなりません。<br/>
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けれど、本当にそのまま、捨ててしまうつもりはないのです。<br/>
言葉を極めて、厳しく当たり、「二度とするなよ。<br/>
今度は許さぬぞ」と、かえって我が子の行く末を案じ、泣いているのです。<br/>
我が子であるからこそ、放ってはおかれないのです。<br/>
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「そのまま救う」とよびかけてくださる如来さま。<br/>
この如来さまを、私たちは「親さま」とお呼びします。<br/>
私を、我が子としてくださるからこそ、あえて「悪をなすものは除くぞ」と誡（いまし）めてくださいます。<br/>
「罪を犯すことなかれ」と、止めてくださいます。<br/>
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「ただ、五逆罪のもの、非謗正法のものは除く」といわれるご本意は、まことの親であるからこその、せつない、やるせない「親心」からのお言葉であったのかと、今さらながら、尊く、かたじけなく思いました。<br/>
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