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世界に一つだけのいのち<br/>
本願寺新報2004（平成16）年6月1日号掲載<br/>
広島・西林寺住職　河野　行昭（こうの　ぎょうしょう）<br/>
人生経験を積み重ねて<br/>
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最近、体力の衰えや老眼等、老いの自覚が縁となり、人生を振り返りながらいろんなことを考えます。<br/>
「年を取る」と言いますが、「年齢を重ねる」とも言います。<br/>
「取る」というと、取ることには限りがあるように感じますが、「重ねる」というのは、経験を人生の上に積み重ねてゆくことで、限りがないような感じがします。<br/>
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例えば「この橋はどんな形をしている？」と問われた時、地面からではよくわからなくても、高いビルの上から眺めるとよくわかります。<br/>
人生も同様に、自身の足もとに経験を積み重ねて、その上に立って物事を判断するとき、それまで見えなかったものが見えてくるようになります。<br/>
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<pclass="cap2">現代の妙好人といわれる榎本栄一氏の詩に<br/>
肉体はおとろえるが<br/>
こころの眼はひらく<br/>
人生の晩年というものはおもしろい<br/>
今日まで生きて<br/>
いのちのふかさが見えてきた<br/>
という詩があります。<br/>
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人生はいろんな経験を積み重ねてゆくことで、幅と深さが増してゆきます。<br/>
自分にとって都合のよいことだけが「いただきもの」ではなく、つらい経験や苦しく悲しいこと、自分にとって都合の悪いことも「いただきもの」なのです。<br/>
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深い恵みに出遇う人生<br/>
そのようにすべてが「いただきもの」であると気付かされるとき、すべてのものの中に「仏のはたらき」を感じ、「人生には一度たりとも無駄な時間はなかったんだ」と、過去までも輝いて振り返ってゆけることでしょう。<br/>
人生はどちらかというと自分にとって都合の悪い出来事を通して深まってゆくものです。<br/>
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この身はやがて老いや病気をはじめ、多くのつらく悲しい経験をもつことでしょう。<br/>
誰も好んで老いてゆくわけではありませんが、老いてこそ初めてわかることもたくさんあります。<br/>
病気になったから出遇（あ）えたという大切なこともあるでしょう。<br/>
つらい悲しい別れがあったからこそ、かけがえのないことを教えられたと頷（うなず）けることもあります。<br/>
どんなことも自分の中で意味付けがされてゆくときに、それらを自分の人生として引き受けてゆく態度が生まれてくるのです。<br/>
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人と比較して幸・不幸を思う人生ではなく、私が私としていただいたいのちに感謝してゆける人生、その私のいのちの上にいつもよび続けられている仏の大きな願いが常に私を支え、励まし、導いてくださる、そういう深い恵みに出遇う人生、それこそが私が一生を尽くしても出遇わなければならない私自身との邂逅（かいこう）なのです。<br/>
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かけがえのないいのち<br/>
マザー・テレサは、「人間にとって最も悲しむべきことは、貧しさや病ではなく、誰からも自分は必要にされていないと感じることである」と指摘しています。<br/>
人は老いてゆく過程で、どこかでこういった想いをもつことでしょう。<br/>
仕事に失敗したり、定年を迎えたり、長い闘病生活を過ごしたり・・・。<br/>
しかし、ご門主は『朝（あした）には紅顔（こうがん）ありて』（角川書店）の中で「老いゆくさま、さらには死んでいくさまを、子や孫をはじめ周囲の人びとに知ってもらい、考えてもらうというのは、人間の最後のつとめなのではないでしょうか」と示されるように、役に立たないいのちはなく、みな深い意味をもったかけがえのないいのちなのです。<br/>
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先年、人気歌手グループのＳＭＡＰ（スマップ）が歌う「世界に一つだけの花」が大ヒットし、大晦日（みそか）の紅白歌合戦の大トリで歌われ、選抜高校野球大会の入場行進曲にも選ばれました。<br/>
人を花に譬（たと）え、すべての人はかけがえのない特別のいのちを生きていることを詠（うた）っています。<br/>
作詞した槙原敬之氏は真宗の教えにふれてこの詩を作ったと聞いていますが、まさにみ教えをいただいてゆくところに開かれてゆく世界が表されています。<br/>
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人生の終わりに臨んで振り返ったとき、「早かったな」と感じながらも、「仏法のお育てにあずかった、ありがたいいのちをいただきました。<br/>
決して短かったと思いません」と頷ける歩みでありたいと願っています。<br/>
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