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沖縄をご縁にして<br/>
本願寺新報2007（平成19）年6月10日号掲載<br/>
神戸女子大学准教授　羽溪　了（はたに　さとる）<br/>
ひめゆりの平和資料館<br/>
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わが家では、これまで家族そろって遠出をする機会がとても少なく、今春には長男が中学進学ということもあり、思い切って、入学前の春休みを利用して家族全員で沖縄に行ってきました。<br/>
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私には三度目の沖縄ですが、今回も、ひめゆり平和祈念資料館に行きました。<br/>
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一九四五年三月二十三日、沖縄の師範学校・高等女学校の女生徒二百二十二人と教師十八人が沖縄陸軍病院に配属され、負傷兵の看護や死体の埋葬等で不眠不休の活動をしました。<br/>
五月下旬、迫る米軍から逃げるように島の南端部へ異動しますが、そこでも激しい砲爆撃が続き、六月十八日に「解散命令」。<br/>
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丸腰の民間人を引っ張りまわし、あとは自分で何とかしろとの決定に、絶望しながら逃げ惑い、砲弾に倒れる者、ガス弾に息絶える者、自ら手榴（りゅう）弾で生命を絶つ者、絶たされる者･･･。<br/>
これが有名なひめゆりの悲劇です。<br/>
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訪れた資料館は以前に比べ展示資料も充実し、いろいろ学ばせてもらいました。<br/>
しかし何度行っても胸に迫るのは、亡くなったひめゆり学徒と教師二百人以上の遺影とそのプロフィールです。<br/>
戦争犠牲をよく数字で表し、「こんなに多くの人が亡くなったのよ」とその惨状を伝えます。<br/>
しかしそれは一方では、「犠牲者は○○人と言われているが、実際は□□人で、その数は言われているより少ないから、そんな言うほどではないよ」的な考えになります。<br/>
かつての南京虐殺事件の評価がいい例です。<br/>
戦争犠牲は数字ではないことを、プロフィール付きの遺影は教えてくれます。<br/>
一人一人それぞれの故郷があり、家族があり、将来の夢やあの惨禍の中での思いがありました。<br/>
それが泡と消えた現実がありました。<br/>
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身を投じた美しい断崖<br/>
資料館の後、切り立つ断崖に波打ち寄せる風光明美な沖縄本島南端の喜屋武（きやん）岬を訪れました。<br/>
「本当に来て良かった！」と思うほど本州ではまず味わうことのできない美しい所でした。<br/>
しかしこの地は、米軍の本土上陸を一日でも延期させるため、軍による県民根こそぎ動員、揚げ句は軍からも見捨てられ、米軍戦車の火災放射器から逃げ惑い、ようやくたどり着いてみれば、海上から無数の米軍艦艇の砲弾を受け、絶望の中つぎつぎとこのがけから人々が身を投じた悲しい場所でした。<br/>
その静かで美しいが故に、なおさらやるせなさを感じさせられました。<br/>
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"あまさ"が戦争の力に<br/>
先頃、前年度の教科書検定の結果が公表されました。<br/>
戦争末期の沖縄戦で起きた住民の集団自決について、「日本軍が強いたものもあった」との表現に文部科学省が意見をつけました。<br/>
来春からは、表現があやふやになり、全面的に市民が一方的に死を選んだ印象が強い表記になります。<br/>
従来の検定では合格していた表現に、今回初めて意見がつきました。<br/>
「美しい国」を掲げる政権の意をくんでのことなのでしょうか？　「美しい国」などという聞こえの良い言葉で、人の生活や人生を踏みにじる事実を覆い隠すことに何も感じられなくさせる教育こそが、かつての過ちを作り出したのではなかったのでしょうか？<br/>

金剛心はすなはちこれ願作（がんさ）仏心なり―親鸞聖人は自身がアミダ如来からいただかれた信心を「金剛心」と述べられています。<br/>
しかし、如来さまのお心は何ものにも破壊されないものであっても、凡夫であるこの私の心は、条件に揺り動かされます。<br/>
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「いやぁ、あまりに勘ぐりすぎだよぉ。<br/>
そんな心配は不毛だょ。<br/>
それより我々の生活の方が大事だからね」との声も聞こえます。<br/>
しかしその"あまさ"こそが容易に戦争を推（お）し進めさせる力となったのではなかったでしょうか？　お念仏を慶（よろこ）ぶご縁に遇（あ）わせていただきながら、人の生活や人生を踏みにじる事実を覆い隠すことに何も感じられなくなってしまう怖さがあります。<br/>
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「さるべき業縁（ごうえん）のもよほさば、いかなるふるまひもすべし」（註釈版聖典844ページ）と、条件次第では何でもする危うさを抱えた私です。<br/>
そんな「私」の集合体である社会だからこそ、私を振り回しかねない条件を、厳しく見つめて対処することを改めて教えてくださる沖縄の旅でした。<br/>
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