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如来の家にかえる<br/>
本願寺新報2008（平成20）年11月1日号掲載<br/>
本山・布教研究専従職員　浅野　執持（あさの　しゅうじ）<br/>
聖典をエスペラントに<br/>
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私の祖父は極めて寡黙（かもく）な人でした。<br/>
家族の中にあっても、めったに口を開くことはありませんでした。<br/>
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しかし、温厚な性格と相まって、地域の門信徒のみなさんからは「ほとけさまのよう」と親しんでいただきました。<br/>
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こんな話を度々耳にします。<br/>
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「老院さんが〝おいしかったです〟と召し上がってくださったぜんざい、後で食べたら、砂糖と塩が間違っていた」<br/>

「〝ごちそうさまでした〟と召し上がっていただいたお酒、後で飲んだらお酢でした」<br/>

「〝ありがとうございました〟と入ってもらったお風呂、後で入ってみると水風呂でした」<br/>

どんな失礼をしても文句一つなかったと、亡くなって十数年経つ今でも、懐かしそうに話してくださいます。<br/>
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そんな物静かな人でしたが、文章では、心ふるわす力強い言葉を数多く残してくれました。<br/>
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終生、仏教聖典のエスペラント語（世界共通言語として生まれた言葉）への翻訳をライフワークとしていました。<br/>
そして、その一方で、ガリ版刷りの寺報「和信」を制作し、門信徒にお届けしていました。<br/>
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何でもないことが重要<br/>
その中に「如来の家」という言葉が紹介されてありました。<br/>
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「如来の家」という言葉は、お経（きょう）にもあり、親鸞聖人の著述にも見えますが、ここではご本尊を中心とした家庭生活のことを示しています。<br/>
私たちが生活するこの家の中心は、私ではなく如来さまであるという考え方です。<br/>
祖父はここに三つの定義をあげています。<br/>
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「如来の家」とは<br/>

一、如来さまがお姿として来てくださってある家<br/>

一、お念仏が朝夕に聞こえる家<br/>

一、お光明がいっぱいに充（み）ち充ちている家<br/>

「お仏壇を開けばいつでも如来さまのお姿が拝見できる。<br/>
この何でもないようなことが、実は大変重要なことだ」と祖父は書いています。<br/>
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「如来さまは既に来てくださっています。<br/>
名号として心にひびき、仏壇を開けばお姿として、いつでも私たちの顔前に立ちたまうではありませんか。<br/>
（中略）『無量寿経』に説かれている如来さまの本願と名号につながっている、ながいながい歴史があって、今私が南無阿弥陀仏という如来さまに遇（あ）うことができたということなのです」<br/>

現代人へのメッセージ<br/>
先日、あるお家の報恩講へお参りしました。<br/>
そこには85歳になるおばあさんが、ご家族と共に住まわれています。<br/>
おつとめの後、その方から思いがけない話をうかがいました。<br/>
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その方は、祖父の遺稿集を毎日少しずつ、日課のように読まれてきたそうです。<br/>
すると、かつて聞いた祖父の声が、繰り返し聞こえるようになったそうです。<br/>
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「南無阿弥陀仏のおこころを、聞かせていただくのです」<br/>

ある時、いても立ってもいられなくなり、お寺の境内奧にある祖父の墓に駆けつけ、そこで一人泣かれたそうです。<br/>
それは感謝の涙でした。<br/>
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祖父の言葉がなかったら、如来さまのこころに遇えずにいたと言われるのです。<br/>
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私は身震いしました。<br/>
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「南無阿弥陀仏のおこころを、聞かせていただくのです」<br/>

この言葉がそのままに、私に対する祖父の声として聞こえたのです。<br/>
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同時に祖父自身、親鸞聖人に感謝せずにはおれなかったのだと感じました。<br/>
寡黙な中にも報恩の思いに充ち充ちた人生であったのだと。<br/>
そして、このような歩みをされた方が数多くおられたことを知らされました。<br/>
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祖父が晩年残した色紙には次のように書かれています。<br/>
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「如来さまの家に帰ろう。<br/>
私が生まれるより先にこの家に来て、私を待っていてくださった家に帰ろう」<br/>

いろいろな意味に受けとれる言葉でありますが、私には、「如来の家」を離れ、現代を忙しく生きている私たちへのメッセージのように聞こえます。<br/>
久遠（くおん）の昔から私を待っていてくださっている如来さまのおこころを聞かせていただく、そんな如来さま中心の家（生活）に帰らせていただきましょうと。<br/>
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