"親" と "親さま" みんなの法話のソースを表示

<br/>
"親"と"親さま"<br/>
本願寺新報　2009（平成21）年5月20日号掲載<br/>
牧野　光博（まきの　みつひろ）（本山・布教研究専従職員）<br/>
木の上に立つ・・・でなく<br/>
<br/>
いつの頃からか、阿弥陀さまのことは「親さま」とも呼ばれてきました。<br/>
<br/>

しかし、阿弥陀さまの「親」と、私たち人間の「親」とは、決して同じではないということもよく聞きます。<br/>
私自身、子を授かり「親」として生きているなかで、「親」ってなんだろうと考えることがありました。<br/>
<br/>

「親」という字は、「木の上に立って子どもを見る、見守る」と書く。<br/>
それが親である、と聞いてきました。<br/>
しかし、漢和辞典で調べてみると、どうも字の成り立ちは少し違うようです。<br/>
<br/>

左側は「木の上に立つ」ではなくて、「辛」と「木」で、これは肌身（はだみ）を刺す鋭い刃物と、その刃物で切られた木を表すようです。<br/>
それを目の前で見ている。<br/>
つまり、ナイフで身を切るように身近に接し見ていること、直（じか）に刺激を受ける近しい間柄（あいだがら）を意味するそうです。<br/>
<br/>

子どもが目の前でナイフで刺されていたら、親は自分が刺されたように痛いものです。<br/>
私は、わが子の痛みをいつも自分の痛みと受け止める者、それを「親」というのだと思いました。<br/>
<br/>

まわりは血の海に<br/>
今から４年前の冬、日本各地で記録的な大雪となり、うちのお寺のある岐阜でも、50年ぶりの大雪でした。<br/>
そして、その事故は大晦日（おおみそか）に起こりました。<br/>
<br/>

長男（当時小学６年）が雪かきをしながら、勢いよくスコップを振り回していたところ、その周りをウロウロしていた次男（同３年）の眉間に、スコップが直撃しました。<br/>
<br/>

眉間から血が噴水のように吹き出し、周りの雪は血の海となりました。<br/>
すぐに病院に連れていくのですが、病院で長いこと待たされるのです。<br/>
<br/>

「早くしてくれ。<br/>
うちの子が血を流して痛がっているんだ」<br/>

イライラが溜まってきます。<br/>
待って、待って、ようやく傷の処置をしてもらえました。<br/>
<br/>

幸い、額を切っただけで骨には異常なく、眉間を６針ぬいましたが、ひとまず安心したわけです。<br/>
その後、待合室で妻と話していたのですが、<br/>

「かわいそうだったけど、うちの子ども同士のことでまだ良かったわ」「これがよそ様の子にケガさせたり、それがまた女の子の顔に傷でもつけていたら大変なことになっていたよな」<br/>

皆さん、これってどうでしょう？　正直、親として、やっぱり今考えても同じように思いますし、これが本音だと思うのですが...。<br/>
<br/>

もちろん、兄弟だから許しあえることもあるでしょう。<br/>
しかし、親の私がよそ様に謝らなくていい、責任をもたなくていいから、兄弟の中のことで良かったと言っているのじゃないかと...。<br/>
そこには、子どもを自分の所有物のように思っている私の姿が、そして自分の子どもさえよければいいという姿が出ていたように思います。<br/>
<br/>

そして、もう一つ大切なことを忘れていました。<br/>
弟をケガさせてしまったお兄ちゃんでした。<br/>
私たちが車で出ていった後、布団の中にもぐりこんでワンワン泣いていたのです。<br/>
<br/>

ケガをした弟も痛かったけど、ケガをさせてしまった兄の心はもっと痛かったでしょう。<br/>
人を傷つけた痛みをすごく感じ、でもどうしていいかもわからず、ただただ泣くしかなかったのでしょう。<br/>
<br/>

そんな時に、親としてせめてひと言でも、声を掛けていられたら良かったな。<br/>
その子どもの心の痛みに寄り添っていられたら良かったと、後になって悔やみました。<br/>
それこそ、わが子のことを、見えているときは心配で大切に思いますが、わが子を見失い、忘れてしまうことがしばしばある。<br/>
それが私という「親」なのでしょう。<br/>
<br/>

私が背を向けても<br/>
「親」という字の如く、生きとしいけるもの、すべてのいのちを等しく見ぬき、いつでもどこでも、私たちの苦しみ悲しみ喜びをともにしてくださっているのが、阿弥陀さまでした。<br/>
<br/>

私がどんなに背を向けようとも、「あなたの親はここにいるよ」と呼んでくださる。<br/>
その真実の「親さま」の名告（の）りを、「南無阿弥陀仏」と聞かせていただきます。<br/>
「親さま」としての阿弥陀さまのお心を聞かせていただき、自分の姿を知らされたならば、まずはわが子に、せめてわが子に「親」であるよう心がけていきたいものです。<br/>
<br/>
<br/>

<br/>
<br/>

{{Hongwanji}}
[[Category:みんなの法話]]