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十九 閉された生涯 「俚 言」

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法悦百景 深川倫雄和上

一 遠い純情 「九條 武子」
二 みおやの涙 「九條 武子」
三 小賢しき分身 「九條 武子」
四 いたき鞭 「九條 武子」
五 みずからの道 「九條 武子」
六 ほろびの玩具 「九條 武子」
七 御遠忌 「浅原 才市」
八 うそ うそ 「浅原 才市」
九 待伏の茶屋 「浅原 才市」
十 くよ くよ 「浅原 才市」
十一 歓喜の称名 「浅原 才市」
十二 夏安居 「浅原 才市」
十三 一隅を照らす 「伝教 大師」
十四 狐客 「古 謡」
十六 今を惜しむ 「兼好 法師」
十七 寝ずの番 「浅原 才市」
十八 華やぐ命 「岡本 かの子」
十九 閉された生涯 「俚 言」
二十 はすの花 「聖覚 法印」
ウィキポータル 法悦百景

仕合せは いつも花さく 春四月
女房十八 わしゃ二十 遣って減らぬ
銭百両 死なぬ子 三人 みな 親孝行


胎生

 花が咲きます。木々の芽がふくらんで、やぶれて、ほほえむような、淡緑色に伸びはじめます。いい季節です。


やわ肌の 熱き血潮に ふれも見で
淋しからずや 道を説く君
 

              (与謝野 晶子)

 方便化土へのいざないが、迫ります。大人数の仕事で、たった一人の欲っぱりが、私有の権利を固く守りますと、ハタと事業は行き詰まりです。銭を減らすまいとしがみついていますと、多くの人は、もう四、五年か、十年がまんしょう、いずれ年寄りだから、長くはない。あれが死にさえすればいいと、待っています。

ああよかった、銭を守ったと思って安心していると、人はみんな、その人の死を待って笑っています。早く死んで了(しま)えとおもわれながら、至極いばってくらしています。ひょいとすると、元気なわが子が、親孝行と寸分かわらぬ真似をして、まことにひそかに、まことに真剣に、老人の死を待っては居まいか。

 胎生は、浄土のことばかりではありますまい。仏の風景を、見ることができない生涯です。仕合せという、なまぬるい昨日今日に、目が眩みます。まだわしゃ二十と思っています。片目で見る景色です。

化生

 仕合せの垣根の中で、満足すること勿れ。真実報土の仕合せは、広い世界である。

(昭和三十七年四月)